更新日: 2021/2/16
パーキンエルマーの ICP 発光分光分析装置 Avio 500 は、多元素同時分析型において高い分離能を誇っています。この分解能とは、一般的には波長分解能のことを指します。ピークとピークを分ける能力を示しています。簡単に言えば、分解能≒ピークのシャープさです。例えば、カドミウムに対する鉄、リンに対する銅、亜鉛に対するニッケルなど、様々な場面で高い分解能を必要とするケースが出てきます。
ところが、パーキンエルマー ICP 発光 Avio 500 は、高分解能設定だけではなく、低分解能、標準分解能、高分解能の 3 段階から選択することができる仕様になっています。メソッドに指定するだけで使い分けることができます。しかし、通常、低分解能設定の出番は無いように思いますし、実はこの 10 年間、出番はありませんでした。しかし、低分解能設定にもメリットがあるはず。それは、多くの光量を取り込むことができることにあります。逆に、分解能を高くする、ということは、光量を絞る行為でもあります。
ということで、今回は低分解能と標準分解能の違いをスペクトルプロファイルと検出下限値に関して比較してみたところ、とても興味深いデータになりましたのでご紹介しようと思います。
※今回はこの記事の執筆締切の関係上、低分解能と、標準分解能の違いのデータしか紹介しておりませんが、ここに高分解能データを重ねても同じ傾向になると予想されます。
まず紹介するのは、低分解能と標準分解能で得られるスペクトルの違いです(左図)。
ピークのシャープさが異なっているのが分かります。低分解能はブロードですが、光量も高いことが分かります。この光量の高さもあって検出下限値は良くなる傾向があると思われます。
右図に示すのは積分時間を変えて検出下限値(LOD)を取得した結果です。LOD はばらつきを持って算出されますので、今回は 3 回(ブランク 10 回繰り返しの 3SD 値を 3 回取得)取得して、その幅をボックスプロットで図示しています(Spotfire による図解)。同じ積分時間であれば、低分解能の LOD のほうが低いことが分かります。
ざっくりと、低分解能の積分時間 2 秒設定と、標準分解能の積分時間 5 秒設定で、同等の LOD が得られる、と見てとれます。発光強度が高いことに起因して、こういった結果になったと考えられます。
では、通常の分析において、分解能が必要なく、感度を求めるなら、低分解能モードで測定すれば、Avio 500 の極限の LOD を得られるのではないか?と思いましたので、いくつかの元素で 20 秒積分までを比較してみたところ、興味深い結果となりました。
![](/Portals/0/images/support/labblog/icp/no25_img3.jpg)
低分解能と標準分解能の積分時間の違いによる検出下限値の推移
20 秒積分くらいにすると、低分解能と標準分解能で LOD に差があまり見えなくなっているようでした。つまり、積分時間を延ばしていくと、最終的には Avio の限界感度に収束していく(?)ように思います。もちろん、低分解能の方が LOD は良い傾向のようですが、あまり大きな違いとは言えない状況になってきます。
![](/Portals/0/images/support/labblog/icp/no25_img4.jpg)
まとめると、
- 低分解能モードは高い発光強度が得られ、短時間の積分時間で低い LOD が得られやすい
- 分解能を高くしたときは、積分時間を延ばすことで、発光強度が低くなるデメリットを解消できる
ということかと思います。ぜひ使い分けてみてください。
一番良いのは、干渉源を前処理で取り除いて低分解能モードで測定すると、最大限の高感度で最良の結果が得られるのかもしれません。
余談ですが、この手の少しマニアックな内容を書くと、記事を書いた自己満足度は高いのですが、アクセス数が少なかったりします。
合わせて読みたい: