更新日: 2025/2/13
ICP-OES 分析では、サンプルと標準液の酸濃度の違いが測定結果に影響を及ぼす可能性があります。硝酸濃度の違いによって物理的干渉が発生し、導入効率や発光強度が変化することが知られています。
以前の記事 「第46回 検量線法の危うさと、内標準補正法の使い方(物理干渉の補正)について~硝酸濃度の問題提議~」 では、内標準補正法を用いることでこうした影響を補正できるものの、元素によって挙動が異なるため、適切な内標準元素の選定が重要であることを紹介しました。本記事では、新たなデータを基に、 標準液とサンプルの硝酸濃度をどの程度一致させるべきかを考えてみました。
【硝酸濃度の違いによる強度変化】
横軸を100 mL中に添加した硝酸(61 %)の量、縦軸を相対強度(1 mL 硝酸添加溶液中で Pb,Cd 1 mg/L 溶液を測定したときの強度を1とした場合の相対強度)とした図を示します。

硝酸の添加量が異なると、物理干渉による導入効率の変化により発光強度が変化します。仮にすべての元素が同じ挙動を示す場合、内標準補正によって完全に補正可能ですが、実際には Cd と Pb のように元素ごとに異なる挙動 を示すことが分かります。
今回のデータからは、硝酸の添加量が 10 mL 程度異なると、3~5 % 程度の強度の変化が見られました。したがって、 この 5分の1の量(2 mL 程度)の差であれば、0.6~1 % 程度の強度の差に抑えられると考えられます。酸の種類によってこの影響の程度は異なりますが、 標準液とサンプルの酸濃度の違いを2 mL 以内に抑えれば、測定誤差を許容範囲内(1 % 以下)に抑えられる可能性が高いです。さらに、この誤差内で内標準補正を行えば、精度を上げることができると考えられます。
ICP-OES測定時の推奨事項
- マイクロウェーブ酸分解法や湿式分解を行う場合は、酸濃度は高くなるため、標準液にも同じ酸を添加して調製するのが望ましい。
- サンプル中の酸濃度が厳密には不明であっても、標準液の酸濃度と 2 mL以内の差に抑えれば、実用上の影響は最小限にできると期待される。
- ICP-OES 分析における高精度な定量を行うために、 標準液とサンプルの酸濃度の調製をすることは重要。
まとめ
ICP-OES の測定では、標準液とサンプルの酸濃度の違いが誤差を生む要因となりえます。酸の種類や元素によってその影響の度合いは異なりますが、2 mL 以内の差に抑えれば誤差は許容範囲内(1 % 以下)に収まると予想されます。
特に酸分解法を使用する場合、標準液の酸濃度を適切に調製することで精度を向上が期待されます。
今回は酸濃度をどれくらい揃えるべきかを検討しました。酸の濃度が異なることに起因して、発光強度が変化します。しかも元素によって挙動が異なると内標準補正に利用する元素の選択も単純ではありません。イオン化干渉の影響もマトリックスの種類によって異なっていることがあります。こうした様々な要因を考慮した内標準元素の選定方法が望まれます。これについての考察は、日本分析化学会第85回分析化学討論会(第85回分析化学討論会/ホームページ)でポスター発表を予定しておりますので、その際に皆様とディスカッションできればと思っています。
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