更新日: 2023/11/15
ICP 質量分析法のおける最大の問題点はスペクトル干渉といわれています。
特に水道水や河川水中の金属成分を測定する際に発生するスペクトル干渉には He ガスを用いたコリジョン法がよく用いられます。
しかし、この数年、世界中で He ガスを入手することが困難となっており、早急な対応が必要となっています。
前回は河川水の標準試料を様々なセルガスを用いて測定を行い、Ar や N2 でも He と同等以上の結果が得られることを示しました。
今回は、横浜市の水道水を測定してみました。
測定の内容は以下の通りです。
ブランクおよび標準液 6 点を測定後、水道水および水道水に2種類の標準液(low、high)を添加した溶液を測定し、添加回収試験を行いました。
また、セルガスによる水道水の定量値及び検出下限値、コスト(ガス代)を比較しました。
検量線の作成
今回は 6 点にて検量線を作成しました。
添加回収試験
検量線を作成後、水道水を測定し、その水道水に標準液を添加し、回収率を求めました。
添加した濃度は以下の通りです。
標準モード(セルガスなし)および He、Ar、N2 を用いた時の回収率は下記の図の通りです。
以上のように Fe と Se の low 以外はほぼ良好な回収率が得られました。
定量結果
次に水道水の定量結果及び検出下限値をモード別に表記したものが下記の図になります。
前回の河川水同様、標準モードでも Fe と Se 以外は測定が出来ますが、検出下限値に差があることがわかります。
Ar ガスや N2 ガスを用いた場合、定量結果は He ガスとほぼ同等な値が得られました。
また、検出下限値については He ガスよりも Ar ガスや N2 ガスの方が低い値が得られていることがわかります。
これらの効果はセルに四重極マスフィルターが搭載された NexION シリーズを用いることで可能になります。
現在、所有している He ガスをずっと使用すれば・・・いえ!都道府県によって多少異なりますが、高圧ガスボンベは安全面を考慮し、最短 3 か月、最長でも 1 年での返却が推奨されています。
また、コストの面でも He ガスの価格は現在も高騰しており、Ar ガスや N2 ガスとの差は広がる一方だと思います。
現時点での比較をすると
|
He ガスに比べて Ar や N2 ガスは |
検出下限値 |
同等~1/90 |
ガス使用量 |
1/2~1/5 |
コスト |
1/5.5 |
となり、Heガスよりも全体的に改善されていることがわかります。
以上のことから万が一、Heガスが手に入らないと心配な方、コストを抑えたい方は次の手を考えておきましょう!