更新日: 2024/11/20
ICP質量分析法において固体試料を測定するには、多くの場合、マイクロウェーブなどを用いて酸分解し溶液化します。
この場合、固体試料が分解できているかの判断はまず、見た目だと思います。
特に、沈殿物が無いかどうか?
では、沈殿物が無ければ、測定結果に影響しないのでしょうか?
答えは影響することがあります!
例えば、マイクロウェーブを用いてあるサンプルを酸分解して、ICP-MSにてAsを測定した場合、測定結果に誤差を生じる可能性があります。
これは、サンプルに含まれるAsが有機Asの場合、ICP-MSの測定に用いる検量線用標準液が無機Asであることが原因と考えられます。
一般的にICP-MSにて無機Asと有機Asの検量線の傾きを比較するとやや感度が異なることがわかっています。
一見、沈殿物が無く、分解しているようであっても、分解条件によっては有機Asのまま存在することで、検量線用標準液の無機Asとの間に感度差が生じて、誤差の原因になります。
下記の表はある標準物質をマイクロウェーブで酸の種類や温度条件などを変更し、4種類の方法で酸分解してICP-MSで測定した結果です。
今回は事前にLC-ICP-MSによりAsの形態別分析を行いました。
その結果、分解液によって有機As、無機As、またはその混在の状態になっていることがわかります。
これらの溶液をICP-MSで測定を行うと、今回の場合には分解液Bが、有機Asを無機化することが出来ており、測定値も認証値と一致していることがわかります。
従いまして、見た目では沈殿物が無く、溶液化されているため、問題ないように見えても、測定結果に誤差を生じてしまうことがわかります。
更に無機化できても安心はできません。
検量線用標準液のAsとサンプル中のAsの価数が異なる可能性があるからです。
ここで第13回のブログを思い出してください。
ICP質量分析装置でAsを測定する場合、価数を気にしていますか?
Asには3+と5+があり、ICP-MSでは感度が異なることが知られています。
しかし、PerkinElmerのDRC(ダイナミックリアクションセル)を用いることでこの感度差が無くなることも発表されています。
結論としては、有機Asを含む固体試料を測定する場合、重要なポイントとしては
① 標準液に合わせるため、無機化すること
② DRCを用いて、価数の感度差をなくすこと
が、あげられます。