更新日: 2022/9/13
今日のテーマは、
積分時間 1 秒×30 回=読取 30 秒のデータと、
積分時間 10 秒×3 回=読取 30 秒のデータで
どちらの方が「測定 RSD が小さくなる」のか?という実験データの紹介です。測定時間をやみくもに増やしても RSD が改善されるわけではない、ということを知ることで、目的に合わせた測定メソッドを作るのに役立つと思います。最終的には、測定RSDって大事なのか?という疑問に迫ります。
ICP の測定は、設定した積分時間で、指定した回数を繰返し測定し、その間に読取した強度(cps)平均値を利用します。
積分時間(秒) × 繰返し数(回数) = 読取時間(秒)
ex) 積分時間 1 秒× 3 回繰返し=3 秒間のデータを取得する
(※今回は測定している信号を読み取っている時間ということで“読取時間”と記載しています。実際には、この式にある積分時間にも内訳がありますが、今回はややこしくなるので省略しますが、積分時間内の内訳も本検証においては全条件で固定しています。)
このとき、繰返し測定によって得られる各積分時間での測定強度のばらつきを RSD として算出します。
ex) 積分時間1秒で得られた強度を繰返し 3 個取得し、その RSD を算出
なお、定量には、カウント/秒(cps)を使うため、積分時間を長くしたらカウントは増えるけど、cpsは変わりませんので、積分時間を長くしても定量値は基本的には変わりません。ただ、ばらつきの程度の違いもあるので一致するとも限りません。
ここで疑問となるのが、積分時間を長くするほうがいいのか、繰返し測定回数を増やすほうがいいのか、というところです。読取時間が同じであればどちらも同じように思いますが、実際はどうなのでしょうか。
なお、相対標準偏差、標準偏差などについては WEB や書籍等々で解説がありますので、今回は実験的に評価したらこうなった、というデータを紹介します。もし間違いや違和感があればぜひご指摘ください。
まずは、読取時間は 30 秒に固定して、そのうちわけを変えて比較します。
ID |
積分時間 |
繰返し回数 |
読取時間 |
0.5s×n60 |
0.5 |
60 |
30 |
1s×n30 |
1 |
30 |
30 |
2s×n15 |
2 |
15 |
30 |
3s×n10 |
3 |
10 |
30 |
5s×n6 |
5 |
6 |
30 |
6s×n5 |
6 |
5 |
30 |
10s×n3 |
10 |
3 |
30 |
15s×n2 |
15 |
2 |
30 |
上記図のプロットは、読取時間内の内訳を変えたときの測定RSDの関係です。
1 秒積分 30 回測定(=30 秒間)と 15 秒積分 2 回(=30 秒間)とでは、15 秒積分 2 回のほうが RSD は小さい値となっています。これは短い積分時間のデータをたくさん取るよりも、長い積分時間のデータを少なくとったほうが良い?ということを示しています。
ただ、さすがに n60 と n2 を比較するのも乱暴かなと思いましたので、追加データを取りました。
まず、繰返し回数は3回に固定して、積分時間を変化させてみます。
ID |
積分時間 |
繰返し回数 |
読取時間 |
1s×n3 |
1 |
3 |
3 |
2s×n3 |
2 |
3 |
6 |
3s×n3 |
3 |
3 |
9 |
4s×n3 |
4 |
3 |
12 |
5s×n3 |
5 |
3 |
15 |
6s×n3 |
6 |
3 |
18 |
7s×n3 |
7 |
3 |
21 |
8s×n3 |
8 |
3 |
24 |
9s×n3 |
9 |
3 |
27 |
10s×n3 |
10 |
3 |
30 |
繰返し数を固定した場合の比較で、積分時間を長くする(=読取時間を長くする)と測定 RSD はもちろん改善していきます。これは第28回 ICPの再現性、測定のばらつき、相対標準偏差(RSD)を可能な限り向上させるテクニック(第1話/全3話)で紹介したとおりです。想定通りの挙動です。
では、次に積分時間は固定して、繰返し回数を変化してたものを上記図に重ねてみます。
ID |
積分時間 |
繰返し回数 |
読取時間 |
1s×n3 |
1 |
3 |
3 |
1s×n6 |
1 |
6 |
6 |
1s×n9 |
1 |
9 |
9 |
1s×n12 |
1 |
12 |
12 |
1s×n15 |
1 |
15 |
15 |
1s×n18 |
1 |
18 |
18 |
1s×n21 |
1 |
21 |
21 |
1s×n24 |
1 |
24 |
24 |
1s×n27 |
1 |
27 |
27 |
1s×n30 |
1 |
30 |
30 |
この図は横軸が読取時間で、青ラインが繰返し回数を増やした場合の RSD 変化、赤ラインが繰返し回数は同じだけど積分時間を長くした場合の RSD 変化を比較しています。
結果として、測定 RSD の改善には、積分時間を長くすることが効果的、ということになりました。繰返し回数は増やすだけ逆効果?というときもありそうです。大変残念なことに、繰返し回数を単純に増やすと RSD は大きくなっていくということです。
ここで実際の分析に目を向けてみると、測定 RSD が大きいからといって、多数のデータの平均値が問題になってしまうのか?という疑問が残ります。
繰返し回数と、測定強度の関係を見てみると、測定 RSD が大きくても繰返し回数が多いほうが測定強度値の収束する傾向が見られています。
従いまして私見としては以下のとおりです。
繰返し回数の変更
メリット:測定平均値を収束させていく効果が期待できる
デメリット:積分時間が短いと、測定RSDが大きくなる懸念がある
積分時間の変更
メリット:測定RSDが小さくなる効果が期待できる
デメリット:繰返し回数が少ないと、測定値がかたよる懸念がある
つまり、分析においてはどちらも大事、ということだと実験データは言っているようです。
結局、RSDって大事なのか分かりませんね。私達は平均値を得るためのばらつきを抑えることが主たる目的になり、測定値の“正確さ”の検証がおろそかになりがちです。測定再現性を改善したうえで、正確さのある定量値を出せるようにしたいものです。繰返し測定の統計学に関する書籍を読み直したいなと思いました。
(今回は読者の方からご質問をいただいた内容をもとに検証しました。ご質問ありがとうございました。)
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