更新日: 2022/2/21
ICP発光は ppb ~ ppm まで幅広い濃度範囲で測定できる無機分析装置です。単元素標準液は 10,000 ppm(1%)も販売されていますが、数百ppm の検量線がひければ活用できます。今回は、アルミニウム 10,000 ppm を使って、10,000 ppm まで直線検量線が書けるかを検証してみました。標準液は、0, 1000, 2000, 4000, 6000, 8000, 10000 ppm(原液)に調製しました。微量域の限界に挑戦した第26回とは真逆の検証です。
ぱっと思いつくのはラジアル測光で、感度の悪い波長であれば可能かもしれない、と予想されますが、実際はどうでしょうか。図1にソフトのスクリーンショットを示します。
図1 10,000 ppm (1%) のスペクトル一覧と検量線一覧
10,000 ppm だとアキシャルの場合 237 nm 以外は飽和してしまいました。ラジアルであってもいずれの波長でも検量線は直線ではなく、曲がってしまっていますね。図2 にはラジアル測光 Al 308 nm の検量線詳細情報を記載します。
図2 ラジアル測光 Al 308 での 10,000 ppm までの曲線検量線
曲線にはなっていますが、一番低濃度の 1000 ppm でも誤差 3.8 % 程度に収まっています。相関係数は 0.99999 以上です。これでいいのか?というとそうでもない気がします。曲がっているということは、すでになんらかの干渉が発生しており、サンプルに Al 以外の共存元素を含んでいた場合、定量性が確保できない懸念があります。内標準補正をすればいいかもしれませんが、できれば直線になっていてほしいと考えられます。発光強度を単に落とし検出器飽和を避けたとしても曲線であれば干渉が考えられます。
では次にロバストな測定条件で測定してみました(図3)。なお、今回はオンライン希釈や、ガス希釈などは用いません。
図3 10,000 ppm(1%) のスペクトル一覧と検量線一覧(ロバスト条件)
今回のロバスト設定条件では、最も高感度なアキシャル Al 395 nm はさすがに飽和してしまいましたが、他の波長は飽和せずに測定できています。アキシャル測光 394 nm でも良好な直線が得られ、検量線と測定点の誤差は 3 % 未満に収まりました(図4)。
図4 アキシャル測光 Al 394 での 10,000 ppm までの直線検量線
図5 ラジアル測光 Al 396 nm での 10,000 ppm までの直線検量線
図5に示すようにラジアルであれば最も発光強度が高い 396 nm であっても直線検量線が得られました。この条件であれば、数千 ppm のサンプルでも定量できそうです。このときの Al 396 nm ラジアルの検出下限値は 0.2 ppm でした。したがって、この条件では 1~10,000 ppm まで 5 桁の範囲で定量可能だと考えられます。今回はプラズマ条件だけで設定しましたが、そういえば、イオン化抑制剤を使うのもありかもしれないですね。
今回のロバストな測定条件:
項目 |
設定 |
装置名 |
Avio 550 |
標準液 |
Al 10,000 ppm から希釈調製 |
トーチ |
石英製標準トーチ |
インジェクター |
アルミナ製 0.8 mm i.d. |
ネブライザー |
SeaSprayネブライザー |
チャンバー |
ガラス製サイクロン |
分解能 |
標準分解能モード |
プラズマガス [L/min] |
10 |
補助ガス [L/min] |
0.2 |
キャリヤーガス [L/min] |
0.25 |
RF出力 [W] |
1500 |
サンプル流量 |
0.8 |
測光方向 |
アキシャルおよびラジアル |
トーチ深さ |
-3 |
繰り返し |
3 |
内標準 |
なし |
加湿器 |
あり |
オートサンプラー |
S23 |
常に全力の高感度な状態で測定する必要はありません。ICP発光では Al は 1 ppb 前後でも測定ができますが、分析目的に応じて必要な感度設定し利用することで、運用の幅が広がり、希釈作業などの簡略化もできます。今回は金属や電池、貴金属マトリックスなどの主成分分析をターゲットに想定して紹介させていただきました。
参考:パーキンエルマーの10000 ppm 標準液リスト
Single-Element Pure Standards - 10,000 µg/mL
Pure Plus Grade Standards for ICP-MS
- Analyzed by ICP-OES
- Analyzed by Classical Web Assay
- 67 trace impurities analyzed by ICP-MS of the final solution and reported on the cetificate
- Impurities reported at ppb level
- All Standards are prepared and certified under ISO Guide 34 and ISO 17025
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