第70回 低流速(0.25 mL/min)での測定再現性はポンプチューブの太さの影響を受けます

更新日: 2026/3/2

ICP-OESでは通常、ポンプチューブを使い、ある程度の流速(1 mL/min 以上)で安定した送液を行うことが一般的です(もちろん負圧吸引による方法もあります。今回はポンプチューブを利用した強制送液に関してです。)。
しかし、次のような場面ではあえてサンプル導入の流速を下げたいことがあります。

  • 少量のサンプルしかない
  • 高濃度試料で導入量を抑えたい
  • マトリックス負荷を軽減したい
  • 高揮発性の有機溶媒を直接測定したい
  • ICP-MSでポンプチューブによる送液したい場合

こういった背景から、低流速(0.25 mL/min)条件下でポンプチューブ内径が測定再現性(RSD)に与える影響を評価しました。

実験条件

  • 送液流速:0.25 mL/min
  • ICP-OES条件:Avio 220 Max プラズマガス 10 L/min, 補助ガス 0.2 L/min, ネブライザーガス 0.60 L/min
  • 測定評価:1 測定あたり 5 秒読取り n=3 測定による RSD [%] を比較
  • ポンプチューブ内径:0.25 / 0.51 / 0.76 / 1.14 mm

ちなみに、パーキンエルマーICP-OES はポンプチューブの種類をデバイス設定し、ポンプ流量設定値欄に指定の任意流量(今回は0.25 mL/min)を入力することで流量設定ができます。ポンプの種類を指定することで、そのチューブでその流速になるように自動的にペリスタルティックポンプの回転数を調整してくれます。つまり、太いポンプチューブだとペリスタルティックポンプの回転数は遅くなり、細いポンプチューブだと回転数は速くなります。


写真 ペリスタルティックポンプ
(ローラーで軟質チューブ内の溶液を送液する構造。今回は送液チューブの内径の違いで測定 RSD が変化するかを評価しました。ローラーサイズによっても影響度合いは異なります。)

測定結果

下図に結果を示します。(図:ポンプチューブ内径 vs n=3 測定 RSD)※RSD は読取り時間によっても変化します。より長い読取り時間によって RSD も低下します。今回は 5 秒としています。

 

結果① 太いチューブでは RSD が悪化

内径が大きくなるにつれて RSD が増加する傾向が確認されました。特に内径 0.76 mm以上で明確に再現性が悪化しています。これは、ペリスタルティックポンプ特有の脈流の影響と考えられます。

  • チューブが太い
  • かつ低回転(低流速運転)

この組み合わせでは、ローラー 1 回転あたりの押し出し体積が大きくなり、流れの“塊”が大きくなります。その結果、ネブライザー導入量が周期的に揺れることで、発光強度が変動し、RSD が悪化するというメカニズムが考えられます。

結果② 0.25 mm と 0.51 mm では RSD が改善

内径 0.25 mm と 0.51 mm では RSD が良好な傾向が見られました。細いポンプチューブを使うと同じ流速であってもペリスタルティックポンプの回転数が速くなります。このため連続送液のリズムが細かくなることで安定した送液状態になっていると考えられます。また、内径 0.25 mm と 0.51 mm では RSD はほぼ同レベルの傾向がみられています。これは、ある程度細くなれば、それ以上は ICP 装置自身の測定ばらつき(プラズマ揺らぎや検出系ノイズ)が支配的になるためと推察されます。つまり、「細ければ細いほど改善できる」というわけではないということです。

まとめ

低流速(0.25 mL/min)で測定する場合、

✔ 太いチューブ(0.76 mm以上)は避ける
✔ 0.51 mm以下を選択することで再現性は改善可能

という結果になりました。ペリスタルティックポンプの回転数が著しく低下してしまわないように、ポンプチューブを細くしてある程度の回転数を確保すると良いです。

ICP-OESでは極端に低流速で運用する機会は多くありませんが、チューブ選択が再現性改善の一因になり得ます。

細いチューブ使用時の注意点

0.51 mm よりも細いチューブの場合、サンプル導入用の PFA ラインを内部に挿入することが困難になります。実際に試すと分かりますが、細すぎて入りません。そのような場合は、フレアタイプ(先端拡張型)のポンプチューブの使用がおすすめです。


写真:フレアタイプ

先端部分のみが広がっているため、PFA ラインが挿入しやすくなっています。

今回の実験のまとめ

低流速時(0.25 mL/min)では、

  • 太径チューブは脈流の影響で RSD が悪化する
  • 0.51 mm 以下で再現性は改善
  • それ以下は装置由来のばらつきが支配的
  • 細径使用時はフレアタイプが有効

流速を下げたいときは、回転数だけでなくチューブ内径にも注目することが重要です。送液条件の最適化は、ちょっとした工夫で再現性を改善できるポイントです。
ぜひ一度、ご自身の装置条件で確認してみてください。

今回使ったポンプチューブは赤枠で示しました。ご参考まで。

 

 

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