第57回 異物スペクトルの解析㉞ ニトリルゴム

更新日: 2026/4/1

今回はニトリルゴム(NBR:acryl-nitrile Butadiene Rubber)をご紹介します。ニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体からなる合成ゴムです。耐油性、耐燃料油性、耐薬品性に優れることから、自動車部品、工業用ホース、Oリング、パッキン、シール材など、幅広い用途で使用されています。そのため、異物分析においても比較的高い頻度で遭遇するゴム材料の一つです。ニトリルゴムの最大の特徴は、ゴムでありながら分子内にニトリル基(–C≡N)という特徴的な官能基を有している点で、これまで取り上げてきた NR、BR、SBR などの炭化水素系ゴムと大きく異なります。NBR の一般的な化学構造は以下の通りです。

 

アクリロニトリルの含有量は用途に応じて調整されており、一般的に含有量が高いほど耐油性は向上しますが、低温特性は低下します。FTIR スペクトルにおいても、この組成比の違いはピーク強度の違いとして反映されます。今回は未配合 NBR の基本スペクトルを示し、NBR とその他物質の判別方法についてご紹介します。次いで製品としてのニトリル手袋やニトリルゴムのスペクトルについてご紹介します。

NBRのスペクトル

NBR は、C-H バンド、ニトリル(-C≡N)バンド、C=C-H 二重結合に由来するバンドの吸収が得られます。未配合 NBR の主要なグループ振動を図1にまとめました。


図1. 未配合 NBR の主要なグループ振動

 

未配合 NBR の ATR スペクトルを図2に示します。


図2. 未配合NBRのATRスペクトル

NBRの吸収ピークの帰属

未配合 NBR の特徴的な吸収ピーク波数と帰属を示します。1,2)

 2920 cm-1 : CH2 逆対称伸縮
 2850 cm-1 : CH2 対称伸縮
 2240 cm-1 : C≡N 伸縮
 1640 cm-1 : C=C 伸縮
 1450 cm-1 : CH2 面内変角 (はさみ)
  965 cm-1 : C=C-H 面外変角 (縦揺れ)

NBR は炭化水素系の化合物なので、炭化水素のエチレン基に由来する 2915, 2850, 1450 cm-1 の C-H 伸縮振動、面内変角振動のバンドがそれぞれ観察されます。加えて、NBR に特徴的なピークとして2240 cm-1 にニトリル基( -C≡N )の特徴的なバンドが存在します。さらに、965 cm-1 にトランス配位ビニレン基 ( -CH=CH- )に由来する 965 cm-1 の吸収が観察されます。これら3種類の官能基に起因する吸収に着目するとよいでしょう。これらの波数域にピークトップを持つのは、NBR か ABS 樹脂のいずれかです。NBR 樹脂であればスチレンのベンゼン環に由来するピークが存在しないため、スチレンの有無により判別が可能です。ニトリル樹脂の帰属情報も参考になりますので併せてご覧ください。

ニトリル手袋と配管用ガスケット

ニトリル手袋は、主に NBR を原料として作られた使い捨て手袋です。医療現場、研究室、食品工場、製造業、清掃作業など、幅広い分野で使用されています。ニトリル手袋は、天然ゴム(ラテックス)手袋や塩化ビニル(PVC)手袋と並ぶ代表的な使い捨て手袋の一つであり、耐油性・耐薬品性・機械的強度に優れる点が大きな特徴です。ニトリル手袋の IR スペクトルを示します。


図3 ニトリル手袋の ATR スペクトル

 

次にガスケットは製造プラントで使われる配管の接合面の隙間を埋めて流体の漏れを防ぐためのゴムで、高い耐油性とシール性が求められるため、NBR が使用されます。ここではヘルールガスケットのスペクトルの例をご紹介します。ヘルールガスケットはカーボンが多量に含まれていてダイヤモンドクリスタルでは良好なスペクトルが得られないため、Ge クリスタルで測定したデータを示します。


図4 ヘルールガスケットの ATR スペクトル (Ge クリスタル使用)

 

図3,4ともにメチレン基、ニトリル基、trans ビニレン基が観察され、かつスチレン基が存在しないことから NBR が主成分であることがわかります。ヘルールガスケットはカーボンブラックの影響でベースラインが右肩上がりになっています。

まとめ

  • 未配合 NBR はニトリル基由来の 2240 cm-1 のバンドと、trans 体ビニレン基に由来する 965 cm-1 の C=C-H の振動バンドが特徴的です。これに加えて一置換ベンゼン環の吸収がなければ NBR と判断できます。

 

次回はブチルゴム(IIR)に着目していきます。お楽しみに!

異物スペクトル解析シリーズ

随時更新していきます!ご期待ください!

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※タイトルと内容は変更する可能性があります。

参考文献

1) 斉藤晃, 溶液重合, 日本ゴム協会誌 71,6, 315-323 (1998)
2) 曽根卓男ら, 低燃費タイヤを指向した末端編成溶液重合, 日本ゴム協会誌, 83, 4, 103-108 (2010)

シリーズ全体を通して、各ピーク波数の帰属は以下の参考文献に基づいています。
3) N.B. Colthup, Introduction to Infrared and Raman Spectroscopy Third Edition
4) 堀口博, 赤外吸光図説総覧