更新日: 2025/12/5
マトリックスが高いサンプル測定の“本当のところ” ICP-OESを使っていると、よく聞かれる質問があります。
「このサンプル、導入しても壊れませんか?」
「塩分が高いけど、そのまま測定していいの?」
ICP-MSでは、コーン詰まりや汚染があるためサンプルの扱いに慎重になりますが、ICP-OESは“サンプルに強い”分析装置として有名です。
では、本当に “何でも入れて大丈夫” なのでしょうか?
この記事では、現場でよくある疑問に、わかりやすくお答えします。
ICP-OESが壊れにくい理由
ICP-OESは、ICP-MSに比べてサンプル耐性がとても高い構造になっています。
✓ インターフェース(コーン)が無い
ICP-MSの最大の弱点である「コーン詰まり」が存在しません。パーキンエルマーICP-OESはアキシャルウィンドウもシェアガスシステムにより全く汚れません。
✓ プラズマが高温で強力
塩分や有機物が多少混じっていても影響が出にくいです。
✓ トーチは石英製で比較的丈夫(セラミックス製もあります)
プラズマはトーチに接触していませんのでサンプル導入によって汚れはしても基本的には壊れません。
こうした理由から、ICP-OESは現場最強クラスの“タフな”元素分析装置と言われています。
でも「何でもOK」というわけではありません(分析上の注意点があります)
耐性が高いとはいえ、やはり気をつけたいポイントがあります。
以下は、装置に負担をかける代表的なケースです。
1. 高TDS(全溶質)サンプル – 塩分や固形物が多い場合
海水、排水、濃縮液など。導入しても良いですが、分析上の対策が必要です。
- ネブライザー詰まり
- スプレーチャンバーの析出
- トーチ先端の堆積
目安:TDS 1%以下がオススメ、~5%程度までは加湿器併用で可。
10% を超える場合は希釈が無難ですが、フラットプレートなら飽和塩水まで可。
パーキンエルマーICP-OESで飽和塩水を連続測定したときのデータ例を記載します。飽和塩水レベルであっても繰り返し安定性を確保しながら測定も可能です。

2. HF(フッ酸)を含むサンプル
石英製パーツ(インジェクター、チャンバー、ネブライザー)を腐食します。
→ 対策:HF対応パーツ(アルミナインジェクター、サファイアインジェクター、テフロン製チャンバー・ネブライザー)に変更する
3. 粘度の高いサンプル(オイル・濃縮液)
送液量が減る、霧化効率も悪化します。感度低下を何らかの方法で対策する必要はりますが、導入してはダメというわけではありません。
→ 対策:
- ペリスタルティックポンプの利用
- 希釈
- 内標準補正の実施など
4. 強酸・強アルカリの極端な条件
- 硝酸、塩酸は 30%くらい。PVCチューブが白色化してしまう。
- 硫酸、りん酸は 10%くらい。粘性の問題が大きい。
- NaOH > 1〜2%:塩の析出で詰まりやすい。アルカリ性では、元素によっては溶液内で沈殿など不安定の要因もあり。
→ 適切な希釈を推奨しますが、導入しても大丈夫です。
結論:ICP-OESは“非常に壊れにくい”けど、分析上の対策は必要
わかりやすくまとめると…
ICP-OESはICP-MSと違い、多少の汚れ・塩分・酸を含むサンプルでも問題なく測定できる“タフな”装置です。迷ったらとりあえず導入して測定値を見てみましょう。
ただし、高TDS・HF・高粘度など特殊な条件では、装置の導入系の寿命や安定性に影響するため、適切な希釈やパーツ選択が必要です。
このポイントを押さえておけば、現場でのトラブルはかなり減ります。未知のサンプルを導入することによって装置本体が壊れる、ということはありませんので、とりあえず測定してみる、という使い方がICP-OESでは可能です。