数学的干渉補正法(干渉補正式)って本当に大丈夫なの? | ICP-MSラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

数学的干渉補正法(干渉補正式)って本当に大丈夫なの?

ICP 質量分析法において特に同重体のある質量数には自動的に干渉補正式が入力されることがあります。
また、マトリックスによるスペクトル干渉がある場合に、干渉補正式を入力して補正をすることも出来ます。
果たして、この数学的干渉補正法(干渉補正式)はどこまで信用してよいのでしょうか?

  1. 同重体

例えば、Zn を測定する場合、同位体は下記の通り、5 種類あり、アバンダンスの高い質量数は 64Zn で 49.1704 % あることがわかります。
つまり、64Zn を用いることで最も感度が高く測定することが出来ることがわかります。

質量数 アバンダンス
63.9291 49.1704
65.926 27.7306
66.9271 4.0401
67.9249 18.4483
69.9253 0.6106

一方、Ni については以下の通りです。
この表をよく見ると Ni にも 64Ni があることがわかります。

質量数 アバンダンス
57.9353 68.0769
59.9332 26.2231
60.931 1.1399
61.9283 3.6345
63.928 0.9256

従いまして 64Zn を測定しようとすると、64Ni も測定してしまいます。
そこで、下記のような補正式が自動的に入力されます。
64Zn の強度=質量数 64 の強度- 0.035297 × 60Ni の強度
(0.035297 は 64Ni/60Niの同位体比)

  1. 多原子イオン

例えば、塩酸中の 75As を測定する際、40Ar35Cl というスペクトル干渉が発生します。
この時、35Cl と 37Cl の同位体比が 3.127:1 であることから、40Ar35Cl(75)と 40Ar37Cl(77)も 3.127:1 であることがわかります。
ただし、77 には Se もあるため、同様な方法により、82Se から 77Se を求め、残った 40Ar37Cl から 40Ar35Cl を求め、75 の強度から差し引くことで As を求めるというちょっと複雑な計算式を入力することで補正できます。

 

以上のようなピークの重なりを他の質量数の強度から補正する方法(数学的干渉補正法)は果たして完全に信用してよいのでしょうか?

答えとしてはその時の状況によります。
例えば、補正をした後の強度が 7 000 cps だったとします。
しかし、この 7 000 cps は 10 000 cps から 3 000 cps を引いた 7 000 cps なのか、100 000 cps から 93 000 cps を引いた 7 000 cps なのかで大きく異なります。
強度というのはある程度のバラツキを含んでいます。
バラツキのある強度からバラツキのある強度を差し引いたらバラツキのある強度になります。
前者の場合、全体の強度(10 000 cps)中の目的成分(7 000 cps)は 70 % なので、補正の精度は高い可能性がありますが、後者の場合には全体の強度(100 000 cps)中の目的成分(7 000 cps)はわずか 7 % しかありませんので、大きくばらつく可能性があり信用できません。
これという決まりはないかもしれませんが、少なくとも全体の強度のうち、目的成分が 50 % 以上含まれていることが望ましいと思います。
問題は元の強度がどれくらいあったのかを確認することはとても煩雑なため、計算式を理解せずに最終的な強度しか見ていない可能性が高いことです。

では、このような場合、どうしたらよいのでしょうか?
同重体の場合には他の質量数で同重体の無いものが無いかを確認します。
例えば、Zn の場合、66Zn を用いると感度は半分近くになるかもしれませんが、少なくとも同重体が無いので、それを考慮する必要はありません。(もちろん、多原子イオンなどは考慮する必要があります。)
また、コリジョン、リアクションセル法によって様々なスペクトル干渉を除去することもできるようになってきていますので、コリジョン、リアクションセル法で出来るのであれば、こちらの方が精度は高いと思います。

 

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