ICPブログウェビナーでいただいたご質問をピックアップして深掘り解説 | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICPブログウェビナーでいただいたご質問をピックアップして深掘り解説

 今回で第60回目のブログ記事となりました。これからも少しでも多くの情報を広く公開していきたいと考えています。

 2024年11月25日に開催しました「ブログウェビナー“さらに深く理解するICP-OESのあれこれ”」にご参加いただき、誠にありがとうございました。ウェビナーでは多くのご質問をいただきました。今回は、その中からいくつかのご質問(匿名、内容改編)をピックアップし、回答とその理由を解説します。ご参加いただいた皆様はもちろん、ご関心のある方はぜひご覧ください。

 

Q. サンプル測定間のリンスには何が適していますか?

A. 基本的には、測定対象元素を含まない水(超純水や、イオン交換水)を使用することを推奨しています。また、1%硝酸や1%塩酸といった希酸も効果的です。デュアルリンス設定のあるオートサンプラーであれば(パーキンエルマーの場合はモデル名S23、S25)、ポート1を希酸、ポート2を水と設定すると理想的です。(S23、S25はポート位置は任意ラック位置に設定可能です。)

 リンス液として理想的なのは、測定対象の元素を効率的に除去できる溶液です。ただし、対象元素の特性に注意する必要があります。たとえば、銀(Ag)の測定では1%塩酸を使用すると、銀が溶解せずに適切な洗浄が行えない可能性があります。

 リンス後の信号強度がブランクレベルまで下がらない場合は、サンプル測定結果に十分影響を与えない程度まで洗浄を行うことが重要となります。たとえば、サンプルの発光強度が10,000 cpsである場合、リンス後に10 cpsの残存する強度があったとしても、定量値への影響は0.1%にとどまります。この考え方は、使用する試薬の純度選択にも適用できます。

 超高純度試薬の硝酸を使用すべきか、純度がそれほど高くない硝酸でも良いかは、以下の点を基に判断できます。

  • 目的元素が試薬に含まれていないこと
  • 試薬のブランク強度が、目的濃度に対して十分に低いこと

 測定目的や精度要件に応じて、適切なリンス条件と試薬を選択するようにしましょう。

 なお、パーキンエルマーICP-OESにはスマートリンス機能が備わっています。リンス時間設定を、「時間」ではなく「濃度」で設定できます。指定の元素が1ppbの発光強度になるまでリンスを続ける、という設定です。便利です。

次の記事も参考にしてみてください:
第7回 迅速分析のコツ1~無駄な時間を減らそう~
(まだスマートリンス機能が実装されていないときの記事でした)

 

Q. フッ化水素酸はどれくらいまで希釈すればガラス製導入パーツを測定に用いても良いでしょうか?

A. フッ化水素酸は希薄な溶液でもガラスを溶かす可能性がありますので、樹脂製のネブライザーと、樹脂製のチャンバーの利用を推奨しています。トーチについては、インジェクター材質がアルミナ製またはサファイア製を利用してください。

N0777031 MiraMist PTFEネブライザー

N0790373 PTFEチャンバー

 

Q. ICP-OESにどれくらい高い元素濃度のサンプルを導入しても問題ありませんか?

A. 高濃度の元素をICP-OESに導入しても、装置内部にサンプルが直接入るわけではないため、基本的には問題ありません。これが、発光現象を利用した分析であるICP-OESのメリットの1つです。プラズマが維持されている限り、測定は可能です。(一方、ICP-MSではイオンが装置内部に進入するため、内部の汚れが懸念されます。)ICP-OESの場合、トーチ、チャンバー、ネブライザーなどの導入パーツを洗浄することで問題を回避できます。したがって、高濃度サンプルでもまずは導入し、測定してみることができます。

 ただし、高濃度サンプルの測定にはいくつかの干渉が生じる可能性があるため、その対策が必要です。以下の干渉を確認し、適切な対応を行うようにしましょう。

  • 物理干渉(回収率を確認)
  • イオン化干渉(回収率を確認)
  • 分光干渉(スペクトルを確認)

 これらの対策には、希釈、内標準補正、標準添加法などがあります。

 また、導入系に残留元素が残ることがあります。たとえば、ナトリウムを含むアルカリ融解サンプルを測定した後に微量のNaを測定したい場合、導入系の取り外し洗浄を行うか、微量分析用の導入系を用意することをお勧めします。トーチも汚れますね。

次の記事も参考にしてみてください:
第55回 ICPで添加回収率の確認実験手順を図で解説~その定量値が妥当かを判断するために~

 

Q. イオン化抑制剤としてCsを添加した場合の懸念点は何ですか?

A. 主な懸念点は、試薬セシウムに含まれる不純物の元素です。市販のセシウム試薬には、不純物の測定結果が添付されているものがあります。以下に、パーキンエルマー製のセシウム標準液(10,000 mg/L)の不純物測定データの例を示します。たとえば、Caが0.050 mg/L含まれている場合、この溶液を10倍に希釈して使用すると、0.005 mg/Lがバックグラウンドに乗ります。そのため、Caの微量濃度を測定する際には、この試薬の使用が難しい場合があります。不純物データが添付されていない試薬を利用する場合には、実際に測定して確認することが重要です。従いまして、Cs試薬に目的元素が含まれてない(目的元素濃度に対して十分低い)場合は、高純度品である必要もありません。

 また、Csは発光がほとんどないため(測定には非常に低感度な元素)、Cs自体を測定する必要がない場合には、高濃度で導入しても分光干渉源になることはほぼありません。

次の記事も参考にしてみてください:
第57回 ICP-OESのイオン化干渉対策としての抑制剤の利用と、効果的な添加調製濃度は?
第23回 カリウムをICP発光で正しく測定するためのテクニック(イオン化抑制剤を再考してみた)

 

Q. 未知のサンプルを測定する必要があります。どのような点に注意が必要ですか?

A. まずは定性分析をすると良いです。特定の元素が高い場合、それ由来の干渉が発生することがあります。高い濃度の元素が含まれない場合、検量線法での測定でも問題ないと判断できます。元素によりますので、一概には言えませんが100 mg/L以上含まれる元素があった場合、干渉の心配があります。
パーキンエルマーのICP-OES Avio550の場合は、SmartQuantという定性モードがあります。周期表上にすべての元素の概算定量値を表示することができます。全体像を把握するのに有効なツールです。これについてはまた別の機会に紹介したいと思います。
 また、時間の都合上、定性をしている暇がない、または定性モードがない場合は、測定後に分光干渉がないかをスペクトル形状から判断し、添加回収率を確認することをおすすめいたします。添加回収率が良ければそこで完了し、回収率が悪ければ対策が必要となります。

次の記事も参考にしてみてください:
第55回 ICPで添加回収率の確認実験手順を図で解説~その定量値が妥当かを判断するために~

 

 他にもたくさんのご質問をいただいております。ブログ記事としてまとめたい内容もありますので、順次アップデートしていきたいと思います。

 

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