ICP発光で標準添加法ってどうやるの?具体的な作業内容を図解 | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICP発光で標準添加法ってどうやるの?具体的な作業内容を図解

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今回は、標準添加法についてです。
標準添加法は、共存元素濃度が高い状態のサンプル溶液中の元素濃度を正しく測定するために有用な手法です。マトリックス対策としては、内標準補正法よりも精度が高い定量値を得ることができると考えられています。今回は具体的に、どのような作業で溶液を調製するのか、サンプルにどれくらいの濃度の標準液を添加して調製するのが理想的か、について考えてみます。

標準添加法を適用するにあたり、前提として、

  • 測定波長に分光干渉がないこと
  • 適切にバックグラウンド補正がなされていること
  • 直線範囲(濃度vs強度)であること

といった注意事項があります。分光干渉があると、たとえば、目的元素のピークに他の元素のピークが重なっている分、高めに定量値が得られることになります。標準添加法は有力なツールですが、分光干渉対策には無力です。もし、分光干渉があるのであれば、マトリックスマッチングしたブランクを用いて差し引くというのもありかとは思います(やったことはありませんが)。
直線範囲については、検量線を測定した時点で確認をしましょう。

 

標準添加法を実施するための手順を記載します。
① 検量線法でサンプルの定量値(概算で可)を求める。定性モードがあれば半定量値でも良い。

まずは 1 点検量線でも良いのでサンプルの定量値にあたりをつけます。
この図ではサンプル定量値が 1 mg/L だった、という例を示して解説します。

 

② サンプルを同じ量ずつ分取して異なる濃度の標準液を添加し、測定溶液を調製します。

サンプルに添加する標準液濃度は、

  • 無添加(単純希釈、水の添加)
  • サンプル予想濃度の 1/2 濃度添加(なくても良い)
  • サンプル予想濃度と同濃度
  • サンプル予想濃度の 2 倍濃度
  • サンプル予想濃度の 3~5 倍濃度

計 4 点くらいあると良いでしょう(無添加サンプルを含む)
例として、私がたまに実施するサンプルボリュームで図解します。
サンプルを 9 mLに数本分取して 10 mLに定容(10/9 倍)する際に、標準液を添加することで、溶液を調製する場合を図解しています。(サンプルを 25 mL分取して 50 mLに定容(2 倍希釈)する際に標準液を添加する、というのも良いです。)

これに限りませんし正しいとは言えませんが、この図のように、サンプルを同じ希釈倍率で希釈する際に、異なる濃度になるように標準液を追加します。添加する濃度は、直線範囲であることと、サンプル濃度近傍であることが望ましいです。JIS K0116 発光分光分析通則には、無添加 1 点+添加 3 点以上を調製する、との記載があります。今回の図解では、サンプルを極力希釈せず、ピペッターで標準液と水を追加添加する作業を示していますが、本来はメスフラスコなどできっちりと調製することが推奨です。あくまで作業内容の考え方として見ていただくと良いと思います。

 

③ 調製した溶液を測定し、発光強度 vs 添加濃度で検量線を作図し、X 軸との交点の濃度値(発光強度ゼロ点)を求める。計算上、マイナス値ですが、プラス濃度とします。

サンプルに対し 1/2 濃度の添加溶液があると、なんとなく上手な切片を得られる気がして好んでいますが、直線性が良ければなくても良いと思います。また添加濃度も 10 倍濃度程度までをおすすめしていますが、なるべく範囲は狭いほうが良さそうです。

なお、標準添加法の直線の切片については、計算切片と、サンプル切片(無添加サンプル測定強度を必ず通過する直線)との 2 種類があります。無添加サンプルの強度を固定すべきか、その点さえも計算上の 1 点とすべきか、という議論になるわけですが、個人的にはサンプル切片が良い傾向があるとは思っています。いずれの測定点がばらつくようであれば、そうとも言えなくなります。

標準添加法の欠点の 1 つとして、この直線の傾きがばらつくと、定量値にも誤差を与えてしまう、という点です。1 つの定量値を出すために、少なくとも 4 点の測定点のばらつきを含み、その傾きから得られる X 軸との交点を求めるため、それぞれの測定点の確からしさが重要だと言えるでしょう。

他の欠点としては、多元素同時測定の場合、それぞれの濃度に合わせて添加する標準液濃度を調製しなければならない、という煩雑さです。その煩雑さから、標準添加法よりも内標準補正法が好まれる場面もあると思います。内標準補正法は目的元素を他の元素で補正する、という考えですので、どうしても誤差は生じます。目的によって選択する必要があります。

 

今回は標準添加法の手順を紹介しました。「第53回 標準添加法は測定値がばらつく、その対策について」では、この標準添加法で得られる結果は完璧なのか、ばらつきを抑えるにはどうすれば良いか、などについて記事にしています。

 

合わせて読みたい記事:

第53回「標準添加法は測定値がばらつく、その対策について

 

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