ICP-OESではバックグランド補正がデフォルト設定である理由と、どのような補正かについて図解 | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICP-OESではバックグランド補正がデフォルト設定である理由と、どのような補正かについて図解

JIS K0116:2003 発光分光分析通則にも記載がありますが、ICP-OESで測定時に発光スペクトルのバックグラウンドの高さが変化した場合、分析線の発光強度計算に影響があるため、バックグラウンド強度を差し引いて正味の発光強度を求める必要があります*。このバックグランドの高さが単純に並行移動(ベースラインの形状が変わらずに、強度だけが上昇または下降)した場合は、この補正方法(バックグラウンド補正)が有効です。

 

このようなバックグランドの位置が変わる現象は、ICP-OESで測定しているとしばしば見られます。どのような場合かというと、

  • 液性が異なる場合(主成分濃度などの影響)
  • 噴霧効率が異なる場合(粘性の問題や、ネブライザーの状態、送液状態の変化、インジェクターの閉塞など)
  • 分光干渉によるもの
  • 装置の状態変化(環境要因なども)

などが主にあげられます。

 

簡単に言うと、ピークが出ているベースラインからの強度を利用して計算する、というのがバックグラウンド補正機能になります。下記の図のように、目的元素ピークがバックグラウンドから出現している部分のみを取り出して使うことになります。


図 バックグラウンド補正を行った場合のピーク計算位置

 

発光強度ゼロからの強度を利用しない、ということですが、ゼロからの強度を利用することの懸念は、ブランク、標準液、サンプル毎にバックグラウンドの高さ位置が異なっていた場合にあります。たとえば下記のようなスペクトルです。黄色ラインがブランクスペクトル、赤色ラインが標準液のスペクトルです。


図 サンプル毎にバックグラウンドの高さが異なっているケース

 

このような場合、バックグラウンド補正の有無で計算結果が変わってしまいます。

 


図 バックグラウンドの位置が変わったときのバックグラウンド補正有無での違い

 

標準液やサンプルの測定は、ブランク強度を差し引いて定量を行いますが、このときバックグラウンドの位置が変わっていると、差し引く量が大きく異なってきます。図に示したのは、発光強度ゼロから強度を正味強度として出した場合と、バックグラウンド位置から正味強度を出した場合のイメージを示しています。バックグラウンド補正をしないと、ブランクに対し、サンプルのバックグラウンド位置が高くなっている分だけ、定量値も高めになってしまう、という結果になります。全体的にプラスの干渉があった、という状況になります。バックグラウンド位置からの強度計算であれば、バックグランド上昇分は計算に使用しませんので、より妥当な結果が得られやすくなります。

バックグラウンド補正を実施したときの実際の計算は、次のようなイメージになります。


図 バックグラウンド補正を行いサンプルからブランクを差し引いた計算
(この図ではバックグラウンドの位置は同等です)

 

自動バックグラウンド補正アルゴリズムについて:

PerkinElmer Avioシリーズの最新ソフトウエアでは、バックグランド補正線は自動で決定されるようになっています(任意のバックグラウンド線を設定することも可能です)。独自のアルゴリズムでバックグランド補正線を決定しているため、分光干渉などがあっても基本的にはソフト任せで良いです。自動設定がないバージョンのソフトをお使いの方は、バックグランド補正線が適切かスペクトル重ね書き画面を見て検討していただくと安心です。

 

スペクトルの形状について:

マルチICP(多元素同時測定型)の場合、1ピークに対し3ピクセルほどが割り当てられています。このピクセル強度を線でつなぎスペクトル形状として表示しています。実際にピークをスキャンしてプロファイルを描いているわけではなく、波長毎強度をプロットして線で結んだだけ、というものです。つまり、XYプロットの折れ線図がスペクトルというわけです。これを強制近似して正規分布形状にしてみたり、多少スムージングする程度であったり、このあたりはメーカーによって設計思想が反映されている部分だと言えます。PerkinElmerの場合は、実際の強度プロットを重視するため、強いスムージングをかけていません。ピクセルとピクセルの間にピークトップがあったりすると、トップがつぶれたような形状になってしまう場合もありますが、基本的には同じピクセル位置で検量線を書き、サンプル定量をするので、形状自体は定量精度に悪影響を与えることはありません。スペクトル同様にバックグラウンド補正線も曲線近似線を使う場合もありますが、基本的にはバックグラウンドから見えている部分のスペクトルのピーク強度を利用する、という考えで計算していますので、ブランク、標準液、サンプルが同じようにバックグランド処理されていることが重要です。

 

ピーク面積という呼称について:

1 ピークに対し、いくつかのピクセル強度を使った場合、そのスペクトル全体の強度を利用するので、「ピーク面積」と呼称していますが、実際は「ピクセル強度の合計値」です。1ピクセルの強度を利用するなら、「ピーク強度」ということと同じ意味です。
なお、PerkinElmerの場合、ピークのアルゴリズムは3種類あって

  • ピーク面積=複数ピクセル強度の合計値を使う(Avio550の場合、デフォルトでは3ピクセル)
  • ピーク高さ=指定範囲の複数ピクセル強度のうち最も高い強度を使う
  • MSF=スペクトル干渉を形状で分離するアルゴリズム

があります。
このうちピーク面積で1ピクセル利用に設定すれば、ピーク高さとほぼ同意味になります。もちろんこれらのピーク面積も高さも、バックグランド補正後強度を利用するのが基本です。

 

ピクセル数について:


図 1ピークに割り当てられているピクセル数

 

マルチICP(多元素同時測定型)の場合、1ピークに対し3ピクセルほどが割り当てられていますが、Avio550の場合は、測定モードによっては7~8ピクセルほどに増やし、詳細なプロファイルを描くことも可能です。実際の正確なプロファイルを見たい場合、例えば、分光干渉があったときなどは利用すると良いでしょう。スペクトルプロファイリング機能(スキャニング機能)と呼称しています。
Avio220の場合は、逐次測定型のため1ピークに割り当てられるピクセル数も多いので、デフォルトで7~9ピクセル設定されています。

より詳細なスペクトル形状を把握したい場合は、ピクセル数が多いほうが有利です。
一方、波長分解能は、ピークとピークの分離度合いがどれくらい確保できるか、というものです。波長分解能が良く、ピクセル数も多い、というのがAvioシリーズ(Optimaシリーズも)の特徴でもあります。

 

少し宣伝が入ってしまいましたが、半導体検出器を利用したICP-OESのピークの取り方について解説しました。普段はあまり考えるところではないかもしれませんが、どのようにピーク計算をしているのか知っておくとICPへの理解も深まると思います。

今回は、ユーザー様からのご質問に基づき記事を作成しました。ご質問いただきありがとうございました。いつでもご相談ください。

*参考文献:JIS K0116 発光分光分析通則

 

合わせて読みたい記事:

第42回:アキシャルはラジアルよりバックグランドが下がるのか上がるのか議論に決着をつけたい ~ゆくゆくは高感度化に必要なことは何かを考える第一歩~
第38回:ICP発光で硝酸由来のN2、NH2、NOの二原子分子による分子スペクトル線が集合した発光線(バンドスペクトル)の存在は、分光干渉となりえるのか?!の問題について
(バックグラウンドについてはマニアックなところから書いていましたね…)

 

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