異物スペクトルの解析㉒ 無機酸化物(アルミナ, 酸化鉄) | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

異物スペクトルの解析㉒ 無機酸化物(アルミナ, 酸化鉄)

今回も前回に続いて無機酸化物、特にアルミナと酸化鉄に着目していきます。

アルミナはアルミニウム (Al) の酸化物です。アルミナはいくつかの安定な結晶が知られていますが、最も有名なのは α-アルミナ (α-Al2O3)です。α-アルミナは天然にも存在し、コランダムという鉱物名が付けられています。酸化鉄は、同様に鉄の酸化物です。酸化鉄は、酸化鉄 (III), 酸化鉄 (II)など、安定な結晶が 6 つ存在します。このうち α-酸化鉄 (III) (α-Fe2O3) が最も安定です。いわゆる赤錆です。
α-アルミナと α-酸化鉄 (III) は、どちらもコランダム型の結晶構造を持っています。この結晶構造では、中心の金属原子に対して酸素原子が 6 配位した八面体構造を有しており、AlO6 や FeO6 と表現することができます。α-アルミナを例にとると、以下のように表されます。

このAlO6 八面体構造と周囲の八面体構造が酸素を共有し、α-アルミナのコランダム構造を形成しています。酸化鉄 (II) の場合、中心のアルミニウム原子が全て鉄原子に置き変わっています。余談ですが、α-アルミナにおけるコランダム構造のアルミニウム原子が一部分だけ鉄原子に置き換わるとサファイアになります。

アルミナは樹脂の熱伝導性を上げるため、酸化鉄は主に樹脂の着色剤として、それぞれ樹脂に添加されることがあります。従って樹脂を測定するとアルミナや酸化鉄が成分として検出されることがあります。これらは異物の材質を推定する際に役に立つことがあります。

今回は無機酸化物、特に α-アルミナと酸化鉄に着目し、スペクトルの特徴と分類のポイントとをお話ししていきます。

 

■アルミナのスペクトル

以下にアルミナの赤外吸収位置を図示します。


図1. アルミナの主要な振動

 

アルミナの ATR スペクトルを図2 に示します。


図2. アルミナの ATR スペクトル

 

主要なピークが 700 cm-1より低波数側にあることがわかります。

 

■アルミナの吸収ピークの帰属

アルミナの特徴的な吸収ピーク波数と帰属を示します1)

  635 cm-1 : AlO6 Al-O 伸縮
  550 cm-1 : AlO6 Al-O 伸縮
  495 cm-1 : AlO6 Al-O 伸縮

アルミナの吸収ピークの最も大きな特徴は、550 cm-1 の太くて強い Al-O 伸縮の吸収です。この吸収は AlO6 構造における Al-O 伸縮として知られています。そのため、このアルミナの結晶構造がコランダム構造であることもわかります。

 

■酸化鉄のスペクトル

次に、酸化鉄の特徴的な吸収ピーク波数と帰属を示します2)


図3. 酸化鉄の主要なグループ振動

 

α-酸化鉄(III) のATRスペクトルを図2 に示します。


図4.α-酸化鉄(III)の ATR スペクトル

 

α-酸化鉄 (III) の特徴的な吸収ピーク波数と帰属を示します2)
アルミナ同様、主要なピークが 700 cm-1 より低波数側にあることがわかります。

  515 cm-1 : FeO6 Fe-O伸縮
  430 cm-1 : FeO6 O-Fe-O変角

次に酸化鉄(II)の吸収スペクトルを示します。酸化鉄(II) は立方晶の結晶です。


図5. 酸化鉄(II)のATRスペクトル

 

酸化鉄(II)は500 cm-1 付近を境に低波数側の吸収強度がで急激に強くなります。図では少しわかりづらいですが、403 cm-1 にピークトップが観察されます。このピークにより α-酸化鉄 (III) と区別が可能です。

 

■まとめ

  • アルミナは、アルミニウムと酸素を主成分とする結晶です。α-アルミナの結晶構造はコランダムで、635 cm-1、550 cm-1 付近に特徴的な吸収ピークを持ちます。
  • α-酸化鉄(III)は α-アルミナと同様コランダム構造の結晶で、515, 430 cm-1 付近に特徴的な吸収ピークを持ちます。また、酸化鉄 (II) は 403 cm-1 にピークトップを持ちます。

 

次回はチタニア、酸化亜鉛を取り上げます。お楽しみに!

 

■異物スペクトル解析シリーズ

随時更新していきます!ご期待ください!

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㉙ 天然ゴム・イソプレンゴム
㉚ SBR
㉛ NBR
㉜ EPDM

※タイトルと内容は変更する可能性があります。

 

■参考文献

1) B. Mokaizh et al., Materials 15, 9, 3046 (2022)
2) I. Abdulkadir et.al., S. Afr. J. Chem., 71, 68–78 (2018)

シリーズ全体を通して、各ピーク波数の帰属は以下の参考文献に基づいています。
3) N.B. Colthup, Introduction to Infrared and Raman Spectroscopy Third Edition
4) 堀口博, 赤外吸光図説総覧

 

 

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