前回、質量数の選択についてお話をしましたが、出来るだけ同重体の無い質量数を1つは選択する方がよいという話をしました。
しかし、スペクトル干渉がある場合には質量数の選択だけでは対応できないことも少なくありません。
どの質量数にもスペクトル干渉があるという場合です。
スペクトル干渉に対して現在、最も効果的な方法はコリジョン、リアクションセル法です。
つまりセル内にガスを流してスペクトル干渉を除去する方法です。
先にお話しした複数の質量数に合わせて、セルの条件を変更して測定した場合、1つの元素に対して複数の定量結果が得られます。
その結果がすべて一致した!ということであればなんとなく安心するかもしれません。
ここでは、複数の定量値からどれが正解の可能性が高いのか?という考え方を紹介したいと思います。
例えば、以下のような結果が出たとします。
(μg/L)
|
63Cu |
65Cu |
サンプル |
5 |
5 |
このような場合、2つの同位体に対して値が一致しました。
安心ですね・・・
違います。
干渉にはスペクトル干渉と非スペクトル干渉があります。
例えば、このサンプルに標準液を添加してみましょう。
(μg/L)
|
63Cu |
65Cu |
サンプル |
5 |
5 |
サンプル+10μg/L |
11 |
11 |
サンプルの定量結果は一致しましたが、それに標準液を添加しても添加した分が増加していません。この場合、10 μg/L 添加したけど、6 μg/L しか増えなかった。つまり回収率 60 % ということになります。
つまり、5 μg/L というサンプルの結果も本当は 8 μg/L くらいあるのに 60 % しか出なかったので、5 μg/L になってしまった。ということになります。
(このような場合には過去のブログ第8回 難しいサンプルを測定するときはロバストなプラズマで?を参照ください。)
したがって、まずは添加回収試験が良好であるという前提で、どれが正しいかということを考える必要があります。
では、添加回収率が良好であり、以下のような結果が得られました。
(μg/L)
|
63Cu |
65Cu |
サンプル |
5 |
1 |
サンプル+10μg/L |
15 |
11 |
添加回収率はともに良好でしたが、63Cu と 65Cu で定量値に差が見られました。
皆さんはどちらが正解に近いと思いますか?
私の場合、基本的にはこのような場合、どちらが低いか?を考えます。
逆に言うと高い方は正しくない可能性が高い!と考えます。
添加回収率が良好ということは非スペクトル干渉の影響がないということになります。
残りはスペクトル干渉ですが、その元素ではないものがそこに乗っかるということなので、どちらかというと高めに出る干渉です。
5 μg/L か 1 μg/L のどちらかが正しいとすると、1 μg/L なのに 5 μg/L も出てしまったのか、5 μg/L なのに 1 μg/L しか出なかったのかどちらかです。
ここで 5 μg/L なのに 1 μg/L しか出なかったという可能性は低いことがわかります。
なぜならば、添加回収率が良好だからです。しかも、65Cu だけ低い回収率ということは考えらえません。
逆に 1 μg/L なのに 5 μg/L も高く出た!ということはあり得ます。
例えば、サンプル中に 23Na がたくさん含まれていたら 40Ar23Na というスペクトル干渉が 63Cu のみに乗っかります。65Cu には乗っかりません。
つまり、スペクトル干渉はその質量数のみにピンポイントで乗っかることがあるのです。
以上のことから、低い方が可能性高いと考えられます。
ここで、セルにガスを流すことにより、0.1 μg/L という答えが出たらどうでしょう?
今度はそれが最有力候補になるわけです。定量値の低かった方にもまた別のスペクトル干渉がある可能性があります。
非スペクトル干渉の影響は添加回収試験により、ある程度確認できますが、スペクトル干渉の影響はもうこれ以上低くなりません・・・というところになります。
ただし、一般的にはセルガスを多く流すほど、効果は高くなりますが、必要以上に流すことで感度が低下することが多いので注意が必要です。
前回、お話ししたように特に同重体のある元素に設定されている干渉補正式により、定量値が低めに補正されてしまうこともありますので、ご注意いただきたいですが、何かの参考になれば幸いです。
2-3 回ほど前には He の代替としてAr や N2 ガスなどをセルガスとして用いた方法を紹介しました。
当然ですが、セルガスによって効果が異なります。
重要なポイントとしては様々なセルガスの選択肢があると定量できる可能性が高くなります。
PerkinElmer の NexION はセル内に特許である四重極マスフィルターを用いているため、様々なガス(アンモニア、メタン、酸素、アルゴン、窒素、ヘリウム、水素など)を使用することができます。
以上のことを参考に最適な条件を見つけて良好な定量結果が得られるようにしましょう。
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