低濃度域を測定するときの検量線はどう設定するほうが良いか?~検出されないことを確認する分析目的などの検量線範囲と濃度設定、検量線式の選択について~ | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ -

低濃度域を測定するときの検量線はどう設定するほうが良いか?
~検出されないことを確認する分析目的などの検量線範囲と濃度設定、検量線式の選択について~

検量線の範囲は、サンプル濃度に合わせて、その濃度を包括するように設定することが大事、だということはよく聞くと思います。では、検出下限値付近や、そもそも検出されないことを確認するような分析目的の場合、検量線範囲はどうすればいいのでしょうか?

1つの考え方として、「サンプル濃度に合わせる」ということを重視する場合、検出できるかどうか分からないけれど、検出下限値付近の濃度の検量線を作成する、というものです。これについては、ブログにも書きました(第22回検量線の直線性と、検出下限値と定量下限値の間は定量できるのか?について考えてみた~ICP発光の場合~)。この記事くらいの範囲で検量線を作成した場合、検量線の傾き自体がばらつく懸念があります。

例として、1 ppb を測定したい場合、下記図のように 0~4 ppb で検量線を引いたとします。(元素によって強度は異なりますが)測定点がばらつく場合があります。ここで検量線を作成し、赤枠内にあるサンプルを定量するケースを考えてみます。

上記では切片ありの直線検量線です。切片をゼロ点通過にした場合を次に示します。(ブランクをゼロとした場合)

このように、検量線の傾きがかなり変わってきます。どちらの直線が正しいのでしょうか。
検量線の直線性(今回の場合は傾き)が信頼できないと、サンプル定量値の確からしさが確保できません。

次に、複数回、各濃度を再測定したときの強度をプロットした図を次に示します。

黄色プロットは、緑プロットと同等の濃度範囲で再測定した場合です。測定点自体がばらついているため、傾きが緑線に対し変わってしまいました。
青プロットは、さらに広い範囲で繰り返し測定しプロットしました。ここまで広げれば、本来の検量線の傾きがどこにあるか分かってきます。ばらつきが少なくなってきた領域を含めた検量線が赤ラインです。

このように、検量線の傾きが正しく得られる濃度域で、検量線を作成することが望ましいと考えられます。

1 ppb を測定したいとき、0-0.5-1-2 ppb という検量線を作成すると検量線がガタガタになってしまう場合は、0-10-20-50 ppb といったように目標濃度よりも多少高い濃度にして、確実な検量線勾配を得て、1 ppb を測定するほうが良いと思います。その結果、1 ppb がばらついて 2 ppb になるかもしれませんが、それは微量でうまく測定できていないとか、RSD を見てみれば、どれくらいのばらつきを持った結果なのか判断できます。

今回の結果からは、検量線の一番低い測定濃度以下の定量を行う場合、検量線式は、計算切片ありの直線検量線より、切片ゼロ点通過の直線検量線のほうが本来の傾きに近いようでもあります。(一方で、高濃度までの広い範囲の検量線の場合は、重み付き直線回帰も良いことがありますのでお試しください。良いかどうかの判断は、測定点の設定濃度との乖離度で把握すると良いでしょう。第27回を参照。)

まとめると、

  • サンプル濃度が低いからといって、検量線濃度を低くする必要は必ずしもない
  • 検量線の傾きがきちんと得られていることが大事
  • 定量下限値より十分高い濃度域で検量線を設定する

日々の分析の参考に考察していただければと思います。

 

合わせて読みたい記事:

第51回:多点の検量線を作成すべき時ってどんな時?(検量線の範囲や測定点数の問題について)
第31回:ICP発光で1%(10,000ppm)まで検量線を書けるのか?
第27回:検量線の直線性の指標である相関係数って大事ですか?
第22回:検量線の直線性と、検出下限値と定量下限値の間は定量できるのか?について考えてみた~ICP発光の場合~
第15回:検量線の範囲や測定点数に決まりはあるのか?

 

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