ICP質量分析法を用いてサンプルを測定する際、様々な選択をしなければなりません。
例えば、
半定量分析はした方がいいか?
元素
質量数(m/z)
積分時間
測定回数
セルガスを流すか?
セルガスの種類
セルガスの流量
検量線の点数
検量線の濃度
検量線のタイプ
定量方法(検量線法、内標準補正法、標準添加法・・・)
アルゴンガス流量(ネブライザーガス、補助ガス、プラズマガス)
RF出力
レンズ電圧
など・・・
これだけの項目について最適と思われるものを選択する必要があるのです。
この中から質量数(m/z)やセルの条件を中心についてお話ししたいと思いますが、今回は、まず、質量数についてお話しします。
皆さんはある元素を測定するとき、どの質量数を選択しますか?
基本的にはメーカー推奨のものを用いると思います。
もしくは、感度の良いもの(同位体存在比の高いもの)。
もしくは念のため、いくつか複数選択・・・となると思います。
もちろん、それでほとんどの場合には問題ないと思いますが、いくつか注意点を紹介したいと思います。
例えば、Zn(亜鉛)の場合、質量数とアバンダンスをまとめると以下の表のようになります。
質量数
|
アバンダンス
|
64 |
49.1704 |
66 |
27.7306 |
67 |
4.0401 |
68 |
18.4483 |
70 |
0.6106 |
この表から Zn は 64Zn が最もアバンダンスが高いことがわかります。
しかし、PerkinElmer のNexIONでの推奨は66Znなのです。
なぜ、66Zn を推奨しているのでしょうか?
実は質量数 64 には Zn 以外に Ni もあるためです。つまり同重体です。
わずか 0.9% しかありませんが、Zn に比べて Ni の濃度が高い場合には影響が大きくなります。
そのため、64Zn を選択した場合には自動的に以下のような補正式が入力され、m/z64 全体から 64Ni の分を差し引くことができます。
m/z 64 全体の強度-0.035297 × 60Ni の強度
(0.035297 は 60Ni から 64Ni を算出するためのアバンダンスの比率を示します。)
この時、皆さんはほとんどの場合、最終的な強度のみを確認していると思いますが、問題が生じる可能性があります。
例えば、5000cps と出た場合、7000cps から64Niの2000cpsを引いた5000cpsなのか、それとも 100000cps から 64Ni の 95000cps を引いた 5000cps なのか、判断をしている方は少ないのではないでしょうか?
全体から 50% 以下の同重体の強度を引くのであれば、ある程度の精度は確保できますが、それ以上の強度を引くことは再現性などに影響を与えてしまいます。
更に、補正式にある 60Ni の強度が Ni だけでない場合もあります。
例えば、CaO(44+16など)です。
つまり、CaO の分も計算に含まれてしまいます。
以上のようなことを考慮し、対応(補正や除去)しなければ正しい値は得られません。
このようなことから多少感度は落ちても同重体の無い質量数を少なくとも 1 つは選択しておいた方がよいでしょう。
もちろん、同重体だけではなく、その他のスペクトル干渉(2 価イオン、酸化物など)も考慮しなければなりませんので、特にスペクトル干渉を受ける可能性のある元素は複数の質量数を測定して、値が一致するかを確認することをお勧めします。(同じようなサンプルの経験があり、この質量数で測定できる!というのがわかっていれば、1 元素 1 条件でも問題ありませんが、初めてそのサンプルを測定する際には注意しましょう。)
このように 1 つの元素に対して複数の条件下で測定した際には、当然、複数の定量結果が得られます。この中からどれを選択するかは、定量結果や検出下限値などから最適な条件(質量数など)を選択していただければよいと思いますが、スペクトル干渉についてはセルを有効に使用する必要がありますので、セルの条件を含めた細かい選択方法については次回紹介したいと思います。
<< Prev
Heガス不足対策!ICP質量分析法で水道水をHeなしで測定してみた!(ArとN2のみ)
Next >>
ICP質量分析法で測定する質量数m/zやセルの条件はどうやって選択するの?-2