多点の検量線を作成すべき時ってどんな時?(検量線の範囲や測定点数の問題について) | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

多点の検量線を作成すべき時ってどんな時?(検量線の範囲や測定点数の問題について)

なぜ検量線を作成する際に、複数濃度の標準液を測定し、多点検量線を測定する必要があるのかについて考えてみます。※あくまで個人的な経験に基づく個人的見解です。

どんなときに多点検量線が良いのか。
溶液の調製に問題がなかったかをチェックするためには、複数溶液を調製したほうが良いのは当然かと思いますが、全体的に間違っていた場合は(たとえば原液の濃度が異なっていたり、採取容量がずれたピペッターを使っていたり)、調製が適切だったかのチェックにはなりませんので、異なる作業、異なる標準液系列で溶液調製を行う必要があります。場合によっては、異なる人が調製したり、自動希釈装置で調製させたりするのも良いと思います(溶液調製の自動化・自動測定については弊社までお問合せください)。

 

今回の本題は、そういった溶液の問題だけではなく、測定における問題についてです。
ICP-OES でナトリウムやカリウムの標準液を測定すると、ある濃度以上で検量線が曲がる現象が見られます。この現象は、他の元素ではあまり見られないイオン化干渉の 1 例です。イオン化干渉が発生すると、ほとんどの元素は減感しますので、高い濃度域では、検量線が湾曲し上に凸の曲線となります(直線が寝てくる)。しかし、ナトリウムとカリウムは下に凹の曲線となります(直線が上昇してくる)。
いずれにしても、どのような濃度で検量線を測定するか、というのを考えてみます。下記図のデータ例は、カリウムを 0~5 ppm まで、0~50 ppm までの検量線を示しています(アキシャル測光の場合)。

左図の 0~5 ppm に関しては、
黒:多点(0-0.2-0.5-1-2-3-4-5 ppm)曲線検量線
赤:1 点(0-5 ppm)直線検量線
青:多点(0-0.2-0.5 ppm)直線検量線(低濃度だけ多点)

1 ppm 以上で検量線が曲がってしまっているため、黒ラインが本来の「濃度 vs 発光強度」の挙動を表していますが、赤ラインの 1 点検量線だと誤差があることが分かります。青ラインの多点検量線であっても、この線の最大値 0.5 ppm を超えた範囲を定量する場合、誤差が発生してしまいます。

右図の 0~50 ppm に関しては、さらに高い濃度域まで線を伸ばしてみた場合です。
黒:多点(0-0.2-0.5-1-2-3-4-5-10-20-30-40-50 ppm)曲線検量線
赤:1点(0-5 ppm)直線検量線
青:多点(0-0.2-0.5 ppm)直線検量線(低濃度だけ多点)
さらに本来の「濃度 vs 発光強度」挙動からの乖離が明確になってきます。

今回のデータで分かることは、検量線を作成は「既知濃度vs発光強度」がどのような関係になるかを知ることが重要な目的の 1 つであり、下記のようなことが言えます。

  • 多点を測らないと「既知濃度vs発光強度」が直線になっているか確認できない
  • 1 点検量線だと本来曲線になっていた場合、誤差が大きくなる
  • 多点であっても標準液の濃度以上の濃度域の定量は危険(その濃度まで直線とは限らない)

 

ある測定点と測定点を線でつなぐ、という行為は、その間にある無数の点がその直線上にあると表現しているものと思います。そのため、直線性が確保できていることを確実に言える程度の測定点が必要ではないでしょうか。(何かの実験データも同じで、測定点と点を結んだら、その間のデータを取ったらその線上に点が乗る可能性がある、と表現していることになりますよね。)

とはいえ、現実的に無数に測定するのは無理ですので、ゼロ点含み 4 点くらい測定し、その相関係数と、直線からの乖離度合いを見て、この濃度範囲では直線関係が得られますね、と言えれば良いと思います。(PerkinElmer ICP ソフトは、そういうところも簡単に確認できるようになっています。)濃度の範囲は、サンプルに合わせてなるべく狭いほうがいいでしょう。ICP は直線範囲が広いので広くとっても良いですが、その分、溶液調製は確実にする必要はあります。(検出されないことを確認するような分析目的の場合の検量線についてはまた別途。)
または、何かの規格法に従ってくださればそれも良い理由づけになります。

 

一方で、確実に直線範囲であることが確認されているような分析であれば、1 点検量線でも良いと言えます。その場合は、その 1 点の「濃度 vs 強度関係」が間違っていないことを、別の濃度の標準液をサンプルとして測定し確認することをおすすめします(それなら多点検量線測定してもいいかもですね)。

 

なるべくラクして正しいと言える検量線を作成していければと思いまして書きました。妥当な結果を得るための第一歩が検量線です。その後に待っている問題の方が多々ありますので、このブログサイトが参考になればと良いなと思います。ちなみに、PerkinElmer の ICP だと 1 ppm 以上のカリウム検量線は曲がってしまうのか、というツッコミもありそうですが、曲げない条件設定もできます。

 

以上、2024 年第 1 回目の記事は、ICP ブログ筆者のあくまで個人的見解でした。正しいとは限りません。ご指摘がありましたら是非お知らせください。

 

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