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ICP質量分析法で有機溶媒って測定できるの?-1

今回はICP質量分析法で有機溶媒中の不純物の測定が可能かを紹介したいと思います。
結論としては、ほとんどの有機溶媒中の不純物の測定を行うことは可能です。
ただし、以下のような問題点や注意点があります。

① 有機溶媒によってはプラズマが消灯してしまうことがある。
② 有機溶媒の導入によって煤(すす)が発生してコーンなどに付着してしまう。
③ 固体試料を有機溶媒で溶解したサンプルを測定する場合には特に注意が必要。
④ 有機溶媒中に元々含まれている不純物が問題となることがある。
⑤ 標準液には何を用いたらよいのか?
⑥ 有機溶媒(C:炭素)による新たなスペクトル干渉の除去が必要

今回は①から③について紹介したいと思います。

有機溶媒は希硝酸などの水系と異なり、沸点が低いなどの特性を持っているものが多くあります。
このような有機溶媒を普通に導入してしまうとプラズマが消灯してしまうことがあります。
プラズマの消灯を防ぐ方法としては以下の3つが挙げられます。


写真:チャンバー冷却システム

ⅰ)スプレーチャンバーを冷却する。
ⅱ)微少量タイプのネブライザーを用いる。
ⅲ)トーチの中心管(インジェクター)の内径を小さくする。

まずはⅰ)によってスプレーチャンバー内の有機溶媒が気化してプラズマへ導入されるのを防ぎます。
次にⅱ)のようなネブライザー(例えば、20~100μL/min導入)の使用によってスプレーチャンバー内に導入されるサンプル量が少なく、霧がより細かくなることで、プラズマが安定しやすくなります。
さらにⅲ)によってインジェクターを通過するスピードが高くなることでドーナツ構造と呼ばれるプラズマの中心部にサンプルが入りやすくなり、プラズマが消灯しにくくなります。

これらすべてを使用する場合もあれば、これらのいずれかを使用することもあります。
固体試料を特に沸点の低い有機溶媒で溶解したサンプルを測定する場合、あまり、内径の小さいインジェクターを用いると、サンプルがインジェクターの先端で再析出して詰まってしまうことがありますので、このようなサンプルを測定する場合にはインジェクターの選択には注意が必要です。
そのサンプルが複数の有機溶媒に溶解するのであれば沸点の高い有機溶媒を選択した方が良い可能性が高いです。

また、有機溶媒を導入することによって、煤(すす)が発生します。
このような場合にはスプレーチャンバー内に少量の酸素ガスを導入することで、煤が出なくなります。
導入量としてはネブライザーガス(アルゴン)流量の数%程度です。


写真:有機溶媒導入時のプラズマ
(酸素が足りない)


写真:チャンバーを外しても点灯している強いNexIONのプラズマ

右図のような状態の場合、酸素が足りていない可能性があります。

 

必要なものをまとめると以下の通りです。

  • スプレーチャンバーの冷却システム
  • 微少量タイプネブライザー
  • トーチインジェクター(サンプルの詰まりに注意!)
  • 酸素ガスの導入(酸素ガス、流量計)

 

なお、PerkinElmer社製のICP質量分析装置NexIONシリーズはJISでも認められたPerkinElmer独特な周波数34MHzを採用することによって比較的安定なプラズマを維持することが出来ます。

次回は④有機溶媒中の不純物、⑤標準液、⑥有機溶媒によるスペクトル干渉について紹介したいと思います。

 

 

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