異物スペクトルの解析⑪ ポリウレタン | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

異物スペクトルの解析⑪ ポリウレタン

今回はポリウレタンをご紹介します。ポリウレタンはウレタン結合 - (N-H) - (C=O) –O– を含む樹脂です。ジオールとジイソシアネートの2種類のモノマーを重合することで得られます。ジオールとジイソシアネートはどちらも様々な種類が存在し、それらの組み合わせで剛直なものから柔軟ものまで、高反発体から低反発体まで、多種多様な物性のポリウレタンを作り出せます。そのため、硬さを求められる塗料から、柔らかなスポンジやゴムまで、様々な用途に利用されています。 ポリウレタンの化学構造は以下の通りです。

R1 とR2 の化学構造の違いに応じて、ポリウレタンの IR スペクトルもまた多様です。本エントリではその中でも代表的なポリウレタンのスペクトルをご紹介します。

ポリウレタンは、ポリエーテルウレタンとポリエステルウレタンに大別されます。R1 の主骨格にエーテル基が含まれるか、あるいはエステル基が含まれるかの違いです。今回はポリエーテルウレタンを中心に説明しますが、ポリエーテルウレタンとポリエステルウレタンの違いについても触れます。

 

■ポリウレタンのスペクトル

ポリウレタンは、ウレタン(カルバミド基)に由来する C=O (アミドⅠ)、C-N-H(アミドⅡ)の吸収が存在します。アミド結合 (-NHCO-) のアミドⅠはおおよそ 1645 cm-1 付近にピークが出現しますので、カルバミド基のアミドⅠは、吸収ピークが 50 cm-1 程度低波数側にシフトしています。また、C-O-C(エーテル基)の吸収も強く現れます。主要なグループ振動を図1にまとめました。


図1. ポリウレタンの主要なグループ振動

 

ポリエーテルウレタンのATRスペクトルを図2に示します。今回は2つの代表的なポリエーテルウレタンを取り上げました。複雑なスペクトルで、多少のバンド形状の違いはありますが、2つのスペクトルには共通する点があることもわかるかと思います。


図2. ポリエーテルウレタンのATRスペクトル

 

■ポリエーテルウレタンの吸収ピークの帰属

ポリエーテルウレタンの特徴的な吸収ピーク波数と帰属を示します。

 3290 cm-1 : N-H 伸縮
 2970 cm-1 : CH3 逆対称伸縮
 2870 cm-1 : CH2 対称伸縮
 1720 cm-1 : C=O 伸縮
 1700 cm-1 : AmideⅠ(C=O)
 1530 cm-1 : AmideⅡ(OCON-H)
 1470 cm-1 : CH2 面内変角 (ひねり)
 1375 cm-1 : CH3 対称変角
 1180 cm-1 : C-O 伸縮
 1090 cm-1 : C-O-C 伸縮

ポリウレタンのアミドⅠは 1720 cm-1 の C=O 伸縮のピークと重なるため、見つけるのが比較的難しいです。そこでまず 3290 cm-1 の N-H 伸縮のピークに着目しましょう。この領域のピークは O-H 伸縮か N-H 伸縮のいずれかです。N-H 伸縮は O-H 伸縮より半値幅が狭くなりますので見分けられます。より確実に見分けたい場合は、SEM-EDS 等による元素分析を併用し、窒素原子の有無で判断しても良いでしょう。
N-H の存在が分かれれば、それらを含有する高分子(ポリアミド樹脂、ポリウレタン、ウレア樹脂など)に絞ることができます。ポリアミド樹脂とウレア樹脂は、エステル基 (1720 cm-1) とエーテル基 (1090 cm-1) の吸収がどちらも強くありません。まずはこのように消去法的に切り分けていき、最後にアミドⅠ, アミドⅡバンドの領域にピークが存在することを確認します。

 

■ポリエーテルウレタンとポリエステルウレタン

ポリエステルウレタンも N-H 伸縮振動やカルバミド基のアミドⅠやアミドⅡを持っていますが、ポリエーテルウレタンと比べると見た目の印象が大きく異なります。図3にポリエーテルウレタンとポリエステルウレタンのATRスペクトルを示します。


図3. ポリエーテルウレタン(黒) / ポリエステルウレタン(赤) のATRスペクトル

 

試料はいずれもウレタンゴムとして販売されている市販品です。ポリエーテルウレタンのピークはエーテル結合に由来する 1090 cm-1 のピークが、ポリエステルウレタンのピークは、エステル結合に由来する 1720 cm-1 の C=O および 1070 cm-1 の C-O の吸収が強く現れていることがわかります。両者でスペクトルの見た目の印象も随分異なっていますので、どちらもウレタン系ですと言われてもピンとこないかもしれません。ポリウレタンのスペクトルは、ウレタン結合起因のバンドと比べてエーテル基やエステル基を含むジオールによるバンドが強く現れるため、ジオールの分子構造の違いに応じてスペクトルの見た目の印象が大きく変わってきます。

 

■ポリエーテルウレタンに含まれるジオール構造の寄与

ポリエーテルウレタンのジオールには様々な種類がありますが、良く利用されるのはポリプロピレングリコール(PPG)と呼ばれるポリオールです。PPG に関連するピークを識別するため、ポリエーテルウレタン (ポリオール:PPG)と、PPG そのもののスペクトルを比較しました。


図4. ポリエーテルウレタン(黒)/ ポリプロピレングリコール (赤)のATRスペクトル

 

C-H 伸縮振動や CH 変角振動、C-O 伸縮振動のバンドは互いによく一致しています。一致しないピークはウレタン結合とジイソシアネートに関連するピークということになります。

 

■まとめ

  • ポリウレタンの定性は、N-H 基、エステル基、エーテル基の吸収から、他のポリマーの可能性を排除しつつ総合的に判断します。
  • ポリエーテルウレタンとポリエステルウレタンのスペクトル形状は、ジオールの形状に依存して大きく異なります。

 

次回はポリカーボネートに着目していきます。お楽しみに!

 

■異物スペクトル解析シリーズ

随時更新していきます!ご期待ください!

有機物か?無機物か? 
ポリエチレン
ポリプロピレン
スチレン系樹脂
ポリ塩化ビニル (塩ビ樹脂)
アクリル樹脂
ポリエステル
ナイロン(ポリアミド)とタンパク質
セルロース
ニトリル系樹脂
ウレタン樹脂 ← Now!!
ポリカーボネート
シリコーン樹脂
フッ素樹脂
イミド系樹脂
エポキシ樹脂
エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)
ポリアセタール(POM)
芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)
芳香族ポリスルフィド(PPS,PES)
無機酸化物(シリカ, ガラス)
無機酸化物(アルミナ, 酸化鉄)
㉓ 無機酸化物(チタニア, 酸化亜鉛)
㉔ 無機水酸化物
㉕ 無機ケイ酸塩鉱物(タルク, カオリン)
㉖ 無機炭酸塩 (CaCO3)v1, v2, v3, v4
㉗ 無機硫酸  (BaSO4, MgSO4)
㉘ 砂と土
㉙ 天然ゴム・イソプレンゴム
㉚ SBR
㉛ NBR
㉜ EPDM

※タイトルと内容は変更する可能性があります。

 

■参考文献

シリーズ全体を通して、各ピーク波数の帰属は以下の参考文献に基づいています。
1) N.B. Colthup, Introduction to Infrared and Raman Spectroscopy Third Edition
2) 堀口博, 赤外吸光図説総覧

 

 

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