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プラズマ分光分析研究会 筑波セミナーで質問の多かった「リアクション法による干渉除去」について解説します。(第2話/全2話)

パーキンエルマー社のある横浜では、連日35℃近くの猛暑が続いていたのが、ほんの少しだけ気温が下がってきたようです。まだ暑い日々が続きますが、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回は前回に引き続き、「リアクション法による干渉除去」について解説します。
リアクション法はコリジョン法とは異なり、元素によっては感度低下がほとんど起こらず、干渉を効果的に除去することのできる、微量分析に適した干渉除去方法です。しかし、反応副生成物(新たな干渉物)に気をつける必要があります。
前回のブログ(プラズマ分光分析研究会 筑波セミナーで質問の多かった「リアクション法による干渉除去」について解説します。(第1話/全2話))では、反応副生成物が生じる原理について解説しました。

 

今回は、実際に起こった事例(定量値が不正確となった事例)について詳しく解説します。

検量線標準液を測定し、その後、既知濃度に調製した標準液を測定しました。

測定元素は Al、K、Cu の 3 元素です。
標準液 : 30 元素程度の混合標準液から調製
試料 1 : 単元素標準液を 1 ppb に調製
試料 2 : 単元素標準液を 2 ppb に調製
試料 3 : 試料1に混合標準液を 1 ppb 添加

 

試料は標準液から調製していますので、試料 1 は 1 ppb、試料 2 は 2 ppb、試料 3 は 2 ppb という結果になるはずですね。

ところが、Cu だけ試料 1 と試料 2 の定量値が合わないということが起こりました。
調製濃度と定量値から回収率%を計算した結果が以下の図になります。回収率が 100%で定量値が調製値と一致していることになり、回収率が 100%より低い場合は定量値が調製値よりも低いということになります。

 

メソッドを確認したところ、リアクションセルの質量分解能設定が推奨値よりも低くなっていたことが分かりました。そこで、質量分解能設定を推奨値に戻して測定をし直したところ、無事正しい値が得られました (下図の右側が正しいメソッドでの測定値)。

 

では、定量値が違ってしまっていた時には、どういうことが起こっていたのでしょうか?
以下の図は、リアクションセルの質量分解能が低い状態で Ti のみの標準液を測定した結果です。標準液には Cu が含まれていないのに Cu の検量線ができていますね。

 

実は、ここで検出されたのは Cu ではなく、Ti と NH3 のクラスターです。Ti のような一部の元素は NH3 と反応しやすいため、このようなクラスターを生成します。下の図は、リアクションセルの質量分解能を低く設定した、クラスターが生じる条件での Ti 標準液のスペクトルです。NH3 を導入することで Ti そのものの強度は下がり、クラスターが生じていることが分かります。逆にこのクラスターを利用した測定手法もあります(クラスター法やマスシフト法と呼ばれる手法です)。この手法については、また別の機会に解説したいと思います。

 

つまり、Cu の定量値が違っていた時には、混合標準液に含まれる他の元素と NH3 との副生成物によって、検量線が以下の青い線のようになっていたことになります。

 

リアクション法を正しく使用するには、質量分解能を調節できる四重極を搭載したコリジョン・リアクションセルが必要です。リアクションセルの質量分解能を適切に設定することで、副生成物が生成されなくなります。そのため、このような検量線の傾きの違いが無くなり、正しい値を得ることが可能となります。

リアクション法は ICP-MS で微量分析を行う上で、非常に有用な手法です。正しい知識を持って、日々の分析業務に活かしていただけると嬉しいです。

 

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