分光干渉特集1 リン(P)に対する銅(Cu)の分光干渉を例に | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

分光干渉特集1 リン(P)に対する銅(Cu)の分光干渉を例に

 ICP-OES でリン(P)と銅(Cu)の測定は、分光干渉の分かりやすい事例として紹介することがあります。P の主要波長は4つあり、213.617 nm、214.914 nm、178.221 nm、177.434 nmです。このうち、P 213.617 nm、P 214.914 nm、P 177.434 nm には近接してCuのピークが観測されます。そこで、P 178.221 nm を使いましょう、と紹介しています。しかし、分光干渉というのは、干渉源の濃度次第で発生するものであり、Cu が入っているからといってP 213.617 nm 等が使えないわけではありません。
 では、実際のスペクトルプロファイルを示します。Cu と P はいずれも同じ濃度です。

 

 このように、分光干渉は波長を選択することで回避が可能です。もちろん、隣接している場合は MSF 法といった分光干渉除去機能も利用できます(MSF 法については後日紹介)。

 発光強度の高い 213.617 nm、214.914 nm を使いたい場合は、分解能(参照:第25回 低分解能/高分解能モードをAvio500で使い分けるコツ)を高く設定してあげれば、Cu の共存濃度によっては十分分離して測定も可能です。

 P 213.617 nm と Cu 213.597 nm の同じ濃度での強度比は、Cu/P で約 6.5(同じ濃度で Cu のほうが 6.5 倍強度が高い)
 P 214.914 nm とCu 214.898 nm の強度比は、Cu/P で約1.5
 P 177.434 nm とCu 177.427 nm の強度比は、Cu/P で約0.1
 Cu の濃度が低ければ P への影響は少なくなるし、強度比が小さい波長ほど Cu の影響は受けにくいと言えます。また、実際の P 測定波長位置の強度は、Cu のピークの裾にあたる部分ですので、その裾の強度よりも測定したいP濃度が十分高ければ定量値に対する影響度合いは小さくなります。

 

 注意点として、標準液の調製についてですが、標準液に P と Cu を混ぜてしまうと、分光干渉を受けた状態で検量線を作成することになります。一方、サンプルに Cu が入っていない場合、分光干渉がない状態での定量になりますので、定量値は低値になる可能性があります。そのため、標準液の調製では P と Cu を混ぜないほうが良いです。
 また、市販P標準液の中には、リン酸二水素カリウムから調製されているものもありますので、カリウム標準液と混合も避けなければいけません。その点からも P は単品で調製したほうが無難なケースが多いかもしれませんね。なお、パーキンエルマーの P 標準液1000 ppm (品番 N9303788, 125 mL) はカリウム塩ではありませんので、混ぜても問題ありません。

 Cu が入っているなら P 213.617 nm は絶対に使っちゃだめではなく、Cu が入っていても P 213.617 nm を使っても良い、という話題を紹介しました。

 

 次回(第36回 分光干渉特集2 具体的に分光干渉ってどれくらいあるの?どんなものがあるの?)は他にどんな元素がどんな分光干渉を発生させてしまうのか、様々な事例を紹介します。JASIS WebExpo で先行公開を予定しておりますので、ぜひサイトを訪れていただければと思います。

 

合わせて読みたい記事:

第25回:低分解能/高分解能モードをAvio500で使い分けるコツ
第19回:ICP発光の細かい使い方講座2 ~測定波長の選択と分光器パージ~

 

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