セシウム(Cs)をICP発光で1ppbまで測定するためのテクニック紹介(第1話/全2話) | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

セシウム(Cs)をICP発光で1ppbまで測定するためのテクニック紹介(第1話/全2話)

 セシウム(Cs)を ICP 発光分光分析法(ICP-OES または ICP-AES と略記)でどれくらい低濃度まで測定できるかを検証しました。ICP-OES においてセシウムは測定感度が悪い元素の 1 つです。Cs の代表的な発光線は、 455.531 nm や 459.320 nm で、いずれも中性原子線です。感度が悪いことは、Cs のイオン化ポテンシャルが低い (3.89 eV) という事実によってさらに悪化しており、ほとんどの Cs はプラズマ中でイオン化されており、原子状態で発光できるのは少量だけとなっています。プラズマ条件によってはイオン化を低減するように設定することもできますが、Cs の発光強度は依然として非常に弱く、これら 2つ波長では微量分析に利用することが難しい状況です。

 そんな中、米国パーキンエルマーから Cs 発光線 894.35 nm なら感度良く測定できる、という情報が届きましたので、実際に私が追加検証してみた結果を紹介します。Cs の微量分析(~1 ppbレベル)に ICP-OES という選択肢を提供します。

Cs 第 1 話目はどこまで測定できるか感度や検出下限値について、Cs 第 2 話目は正しく定量できるかの評価や対策について、全 2 話に渡り紹介していく予定です。なお、第 2 話目の配信はアプリケーションノートを公開した後となる見込みで、タイミングは未定となります。先に詳しく知りたい方はご連絡ください。

 

 まずは Cs の検量線を作成しました。標準液は、0、10、20、40、60、80、100、120、140、160、180 µg/L(ppb)で細かく準備しました(これにより直線なのか曲線なのかも判断できます)。測定装置は、長波長側 900 nmまで測定できる Avio220 Max を使用しました。


図 Cs 894.353 nm での 10~180 ppb の検量線(ホットプラズマ条件)

 Avio 220 測定条件(デフォルトのホットプラズマ条件※);
 プラズマガス 8 L/min、補助ガス 0.2 L/min、ネブライザーガス 0.55 L/min、RF 1500 W、サンプル流速 1 mL/min
 ※ホットプラズマRF 出力を高くプラズマガスを少なくする事によって調整しています。

 確かに良好な直線が得られ 10 ppb で検量線からの乖離度は -5 % 程度と上出来だと思います。検出下限値は情報通り 1 秒積分設定で 10 µg/L でした。10 秒積分設定では 2 µg/L ほどまで改善できています。

 

 ここで終わろうかと思いましたが、ブログ的にはチャンピオンデータを目指したい、ということで、以前紹介したカリウムのチャンピオンデータを取ったコールドプラズマを試しました。カリウムもセシウムも似た者同士でしょう。

 Avio220 測定条件(コールドプラズマ条件※);
 プラズマガス 17 L/min、補助ガス 0.2 L/min、ネブライザーガス 1.0 L/min、RF 1000 W、サンプル流速 1 mL/min
 ※コールドプラズマRF 出力を低くネブライザーガスを多くする事によって調整しています。


写真 プラズマ設定での見た目の違い

 

 驚いたことに、10 ppb くらいが限界と思っていましたが、プラズマ条件の最適化により Cs の検出下限値は1秒積分設定で 0.7 µg/L で 14 倍ほど感度向上10 秒積分設定で 0.25 µg/L でした。プラズマガス 10 L/min でも検証してみましたが、若干悪くはなるように見えましたが、Cs 1 ppb から直線検量線がひけることを確認しました(下記に示す検量線)。ランニングコストを気にする場合はプラズマガス 10 L/min でも十分感度が出ます。


図 Cs 1~10ppb の検量線(コールドプラズマ条件)

 

 発光スペクトルも比較してみました。下記の左がホットプラズマ、右がコールドプラズマ条件です。明らかにS/Nが改善されているのが分かります。


図 ホットとコールドプラズマ条件での Cs スペクトル比較

 

 この濃度レベルになると Cs は汚染が残りますので、いかにブランクを低く抑えるかにかかってきます。ICP-MS で 133Cs を使った研究をしていたときに、微量域でのCs汚染に悩まされた思い出があります。まさか ICP-OES で Cs 汚染が気になるレベルに到達とは思いもしませんでした。


図 コールドプラズマ条件での Cs 1~10 ppb スペクトル

 

 10 秒積分設定で検出下限値 0.25 µg/L、定量下限値(10σ として)0.8 µg/L ですので、1 µg/L レベルの定量が十分可能です。1 µg/L のピークも目視可能です(ブランクにもピークが見られるので、もう少しきれいになれば・・・)。
 この感度は、電気加熱原子吸光分析法 ETAAS (electrothermal atomic absorption spectrometry) より良いかもしれません。ICP-MS には勝てませんが、用途によっては ICP-OES Avio220 Max という新しい選択肢を提案できます。

 実際の分析に適用するにあたって残る問題は、セシウムはイオン化干渉を受けやすいことです。次回はセシウムを定量する際の問題点と対策案について書く予定です。

 余談ですが、今回の各プラズマ条件(ホットとコールド)での各励起温度を調べたところ、約2000 K ほど差がありました。ネブライザーの種類によっては、もう少し温度を下げれるかもしれません。

 

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