ICP質量分析装置の感度が前処理によって変わるって本当?? | ICP-MSラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICP質量分析装置の感度が前処理によって変わるって本当??

ICP質量分析法におけるサンプルは基本的には液体です。
気体や、固体を直接測定する方法も開発されていますが、ここでは触れないでおきましょう。

一般的にはサンプルが固体の場合には何らかの方法により溶液化し、それを、測定することが多いと思われます。
ここでは、超微量分析の代表例であるシリコンウェハ表面の超微量元素の測定方法についてお話してみたいと思います。

シリコンウェハ表面の超微量元素を測定するには、まず、表面にある(ある程度の深さまでの)元素を回収する必要があります。
私が30年位前に研究していた時は、シリコンウェハにフッ酸系の回収液を滴下し、全体に広がるようにウェハを傾け、表面の元素を回収していました。
現在は、下の図のようにフッ酸系の回収液のついた棒状のものをレコード(もう、おじさんしか見たことないかも)のように走査しながら、回収し、その溶液中の濃度をICP-MSで測定し(ng/L)、表面濃度(atoms/cm2)に換算します。

 

ここで注目していただきたいのは、回収液の液量とウェハのサイズ(面積)です。
見かけ上の感度を高くするのであれば、回収液の液量を少なくして、ウェハのサイズを大きくすればよいのです。(感度が上がるというと語弊があるかもしれませんが・・・)
例えば、1mL の回収液を 0.2 mL に変えるだけで、5 倍変わります。
ウェハサイズも同様です。
濃縮しているのと同じイメージだと思います。

 

しかし・・・
ここで問題になるのは、液量が少なくなると、あまり多くの元素を測定できないのでは?ということと、シリコンウェハの表面を回収しているので、回収液中のシリコンの濃度が高くなるので定量性が悪くなるのでは?いうことです。

例えば、0.2 mL のサンプル中の 30 元素を測定するには条件にもよりますが、3~4 分はかかると思います。
毎分 0.1 mL 用ネブライザーであれば、測定できません。(2 分しかもちません)
そこで、毎分 0.02 mL 用ネブライザーなどを使用することで、十分対応が可能になります。(10 分間噴霧できます。)
これらのネブライザーは 5 倍吸い上げ量が異なりますが、実は感度はそれほど変わらないのです。

 

シリコン濃度に関してはサンプル中のマトリックスが増加しますので、検量線用標準液(フッ酸系回収液に標準液を添加したもの)とシリコンが大量に含まれている溶液の感度が一致しないと、定量することが出来ません。(つまり、添加回収試験が良好であること)
NexION では、数 1000 mg/L レベルのシリコンが含まれていても感度が変わらない(定量性がある)ことがわかっています。これにはプラズマの温度の高いホットプラズマ条件のみで測定が可能なことがポイントになると思います。
条件や装置によっては、感度が低下してしまう可能性が非常に高い(定量性がない)と思います。

 

同様に、固体を酸分解する際には、固体試料の採取量とメスアップする容量によって固体中の定量下限値は異なると思いますが、特に定量性があるか?(添加回収試験が良好であるか?例えば 100±20 %以内)を確認する必要があります。
一方で、必要以上に定量下限値を低くする必要が無い場合もあると思います。
問題は皆さんがどこまで見たいのか?が重要だと思います。
例えば、下記の図を見てください。

縦軸は濃度を表していますが、まずは、皆さんが持っている装置の通常の定量下限値(LOQ=ブランク溶液の 10σ に相当する濃度)を理解することが重要です。(図の(D)に該当します。)
次に、皆さんのサンプルに使用している試薬(硝酸など)のみを希釈した溶液(サンプルは含みません。)を用いて、定量下限値を算出した場合を C とします。(試薬ブランク)
更に、皆さんが行っている操作(希釈、加熱など)をサンプルなしで行った溶液で算出した定量下限値をBとします。(操作ブランク)

この時、操作ブランクはその時の状況によるのである程度のバラツキが生じると思います。
これらの値に対して、皆さんが目標としている定量下限値(A)があると思います。
(実際にはこれらに希釈倍率で換算する必要があります。)

もし、この A をもっと低くしたい時に、操作ブランク(B)が大きく影響しているのであれば、作業環境(例えばクリーンルーム)や用いる治具や容器(例えばテフロン容器)の洗浄や材質の選定が重要になります。
試薬ブランク(C)が大きく影響しているのであれば、より高純度な試薬を用いる必要があります。
逆に言えば、それほど、低い定量下限値を求めないのであれば、一般の実験室での作業やそれほど高くない純度の試薬でも良いということになります。

 

皆さんが必要としている条件に合った作業環境や治具を見つけることがそのサンプルの分析法を確立する重要な部分であることを理解していただければと思います。

 

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