ICP質量分析装置で超微量分析を行う時の問題点って何? | ICP-MSラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICP質量分析装置で超微量分析を行う時の問題点って何?

ICP質量分析法において超微量分析を行う場合の最大の問題点は何でしょうか?
もちろん、超微量分析なので、作業環境や治具などからの汚染には十分注意が必要ですが、ここではICP質量分析法での測定に関してお話ししたいと思います。

ICP質量分析法における測定時の最大の問題点はスペクトル干渉だといわれています。
このスペクトル干渉が超微量分析を行う時に大きな問題となります。
例えば、56Fe を測定する際の 40Ar16O や塩酸中の 75As を測定する際の 40Ar35Cl などがそれにあたります。
しかし、1999年にパーキンエルマーから世界で初めて発表された DRC(ダイナミックリアクションセル)によってほとんどのスペクトル干渉は除去できるようになってきています。
また、2020年、下図のような真のトリプル四重極(実は4つの四重極。特にセルの部分にも四重極を用いているのはパーキンエルマーのみです。)の登場によりその可能性は最大限なものとなりました。


図. 真のトリプル四重極(NexION5000 MultiQuadrupole)の構成図

 

ここでのポイントは以下の通りです。
① 出来るだけ感度を落とさずに、スペクトル干渉をどこまで除去できるか?
② 反応副生成物の生成を抑えることが出来るか?

 

では、これらについて考えていきましょう。

まず、“① 出来るだけ感度を落とさずに、スペクトル干渉をどこまで除去できるか?”についてですが、現在スペクトル干渉の除去に最も効果のあるガスの1つとして、アンモニアガス(NH3)があります。
アンモニアガスの効果を最大限に発揮するには当然のことながら純アンモニアガス(100%アンモニアガス)を用いることです。(ヘリウム等で希釈しない)
100%でないと反応性が低くなり、完全にスペクトル干渉を除去できないことや、ヘリウムガスなどが混合されることにより、反応よりも衝突の方がメインで働くため、感度が低下してしまいます。
パーキンエルマーのNexIONシリーズは純アンモニアガスを導入できる唯一のICP-MSです。

 

次に“② 反応副生成物の生成を抑えることが出来るか?”についてですが、ここで反応副生成物についておさらいしてみましょう。

第10回ブログ参照 「なぜ、ICP質量分析装置での反応セルは四重極マスフィルターの方がいいの?」

反応副生成物とは例えば、m/z = M+ の元素に対するスペクトル干渉 XY+ をセル内でアンモニアガス(NH3)と反応させ、XY → XY とすることで除去が可能になります。その際に、アンモニアガス(NH3)がアンモニアイオン(NH3+)に変化し、それが他の元素 N+ と反応することで生成します。(NH3N+ = M+
折角、XY+ というスペクトル干渉を除去したのに、また、新たな NH3N+ というスペクトル干渉が出来てしまっては定量値が高くなったり、バックグラウンドの上昇につながってしまいます。

そこでセル内に質量分解能を有する四重極マスフィルターを用いることで(M+ 付近の元素のみがセルを通過し、 N+ や NH3+ は通過できない)、これらの反応副生成物を生成する元のイオンを除去することで反応副生成物の生成を抑えることが出来ます。
逆に言うと、セルに質量分解能が無い場合には、反応副生成物が出来てしまいます。
セルに質量分解能を持つ四重極マスフィルターを用いているのはパーキンエルマーのみです。

 

この①と②を組み合わせることで、スペクトル干渉の除去能力が高く、バックグラウンドの上昇がない条件での測定が可能となります。

 

 

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