現在、国内で使用されているICP質量分析装置のほとんどはICP-QMSです。
Qとは Quadrupole のことであり、四重極マスフィルターを意味します。
下の図のように、横軸を q、縦軸を a とした時に各元素に対して三角形の安定領域を持っています。
安定領域とは四重極を安定して通過することができるという領域です。
例えば、115In と 238U の安定領域は一部が重なっていることがわかります。
この時、a を0として、238U を測定する際に、q の値を高くすることで 115In が通過出来なくなることがわかります。
一方、115In を測定する際に、a の値を高くすることで 238U が通過できなくなることがわかります。
つまり、a と q の値を調整することによって、通過させる質量数を選択することができるということになります。これを質量分解能があるといいます。
これらの a および q の Rejection Parameter(=RP、特定の質量を排除するためのパラメーター)として RPa と RPq という表記になっており、直流電圧、交流電圧、周波数、電極間の距離、質量数などで、変化します。
図.四重極質量分析計の分解能
NexION 2000 は下図のような構造をしています。
ユニバーサルセル(コリジョンリアクションセル)には四重極マスフィルターが含まれており、その後方に主四重極マスフィルターがあることがわかります。
ちなみに質量分解能は四重極にしかなく、六重極や八重極ではすべてのイオンを通過させてしまいます。
つまり、NexION 2000 は ICP-QMS-QMS であり、ユニバーサルセルにも質量分解能があるということがわかります。
では、なぜ、セルの部分にも質量分解能が必要なのでしょうか?
以前のブログ “なぜ、ICP質量分析装置での反応セルは四重極マスフィルターの方がいいの?” でも書きましたが、重要な部分なので、おさらいしたいと思います。
図.NexION2000構成図
特にリアクション法を用いる場合、有効なガスとしては NH3、CH4、O2 などがあります。
セルの中では、下の式のようにスペクトル干渉を引き起こす多原子イオンや同重体イオン(この場合、Ar+)を除去するために中性化(Ar+ → Ar)する代わりに、ガス成分がイオン化されます。(この場合、NH3 → NH3+)
40Ca+ + NH3 → 反応しない
40Ar+ + NH3 → 40Ar + NH3+
このイオン化されたセルガスが、他の元素と結合し、反応副生成物として新たなスペクトル干渉となります。
ユニバーサルセル内の四重極の質量分解能を用いて反応副生成物を生成する元のイオンを除去することが出来ると、反応副生成物ができず、バックグラウンドが高くならない(=超微量域を測定しやすい)といった効果を得ることができます。これはセル内の質量分解能を変えて測定してみると実感できますので試してみてください。ご不明点があればWEB問い合わせ受付・サポートもしています。
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