もう怖くない! マイクロ波前処理装置 ~後編~ | 前処理、AASラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

もう怖くない! マイクロ波前処理装置 ~後編~

 後編では 「マイクロ波前処理装置 操作上の10カ条」の第6条から第10条までを、ラボでの事例もあわせて紹介します。(第1条~第5条はこちら
 分解液を分析するときの注意点もありますので、最後まで読んでくださいね。

 

第6条 サンプルの反応性を考慮しましょう

 試薬を添加しただけで激しい反応がおこる場合は、すぐに容器を密閉にせず、反応が収まるまで放置します。容器内の圧力が高い状態で分解をスタートすると、センサー類が正しく動作しません。加熱初期の反応を制御することが、マイクロ波試料分解法では重要になります。
 マイクロ波前処理装置は、反応を加速させるための装置です。金属粉などのように、酸に簡単に溶けてしまうようなサンプルには、あまり適していません。このような試料の前処理や高温での加熱が必要でないときは、ヒーティングブロックやホットプレートを使用した試料前処理の方が適している場合もあります。

ヒートブロック試料前処理システム(SPBシリーズ)

 

第7条 容器の“密閉を保つ部分”に異物の付着等がないように

 フタや容器の「接する部分(図中の矢印部分)」に異物が付着していると、密閉が保てなくなります。その結果、圧力が上昇しにくくなり、温度も思うように上昇しません。
 また、分解時のガスが漏れたり、容器内が乾固してせっかく準備したサンプルや時間が無駄になってしまうことも。使用前には、フタや容器の「接する部分」に異物がないかを確認しましょう。また、フタや容器の変形、キズの有無も注意してください。

 

 

第8条 加熱温度は徐々に上げる

 せっかくの前処理装置、短時間で分解を済ませたいところ。でも、加熱温度は徐々に上げるようにして、急激な自己反応を回避することが、安全に分解を進めるポイントです。反応ガスが多量に発生する有機物サンプルは、2段階、3段階を経る温度プログラムを推奨します(下図)。ラボではさまざまなサンプルを分解しますので、ほとんどの場合、数段階に分けて昇温させるプログラムを使用します。圧力や出力の上限値の設定も忘れずに。ただし、マイクロ波の出力不足には注意しましょう。

温度
[℃]
Pres.
[bar]
Ramp
[min]
Hold
[min]
130 30 10:00 5:00
170 60 10:00 5:00
210 60 5:00 10:00


有機物サンプルの分解プログラム例とイメージ

 

第9条 容器の洗浄

 容器中に残留していると思われる物質を予想して、適切な試薬(硝酸・塩酸・ふっ化水素酸など)を用いて洗浄します。クリーニング用のプログラムを活用するのも問題ありません。洗浄後の保管は、容器表面が乾燥してゴミなどが付着しないよう、容器内に純水を満たしておきます。

 洗浄方法については、お問い合わせの中で分解メソッドの次に多いかもしれません。
「クリーニングメソッドがありますが、毎回それで洗浄しないとダメなんですか?」
「純水や薄い硝酸に浸け置きしているんですが、大丈夫ですか?」 
といった内容をよく聞きます。迷ったときは、操作ブランクの値から判断してください。操作ブランクがきちんと管理されていれば、クリーニングメソッドで加熱洗浄しても浸け置きでも問題ありません。

 ところで、分解容器に関わらず、メスフラスコやポリビン、ガラスビンなど、容器類の口の部分は意外と汚れている、ってご存じですか? 分析結果が高値になり、調査をしたらビンの口が汚れていた、ってことがありました。分解容器の口の部分、使用前にはキズや変形の確認をしつつ、流水での洗浄をおススメします。

 

第10条 濁りの有無など目視による判断を大切に

 分解液が濁っている、黒片が残っている、砂みたいな残渣が・・・、完全分解できたかどうかは、まずは目視で判断してください。着色はマトリックスに影響しますので、着色があるから失敗、というわけではありません。残渣がなければヨシ!としたいところですが、目視での判断が難しい場合は分析してみましょう。目的の数値が得られたか、データがばらついていないかは、完全分解できたかどうかの判断材料になります。
 わざわざ検量線を作って定量するのもなぁ、って時は、上澄み液をサクッと定性分析するのもひとつの手ですよ。

 

 

濁っているから失敗なの?
黄色いけど残渣ないから大丈夫よね?

 

 

さいごに・・・マイクロ波前処理装置での分解液を分析するときの注意点です。

  • 分解液は酸濃度が高いので、まずは取り扱いに気をつけてください。
  • 操作ブランクは必ず実施してください。(ICP-MSは感度が高いので、操作ブランクの扱いに要注意。)
  • 標準液の酸濃度は、分解液の酸濃度に合わせます。混酸で分解したときは、酸の種類も合わせます。分解液を希釈せずに測定する場合は特に注意してください。
    →AA(ファーネス法)では、原子化効率の違いによって減感します。
    →ICP-OES、ICP-MSでは、物理干渉によってネブライザーの噴霧効率が落ち、減感します。
  • 塩酸や硫酸を使用した時は、ICP-MSではスペクトル干渉にも注意します。(分解時の酸の選択を慎重に。)
  • 分解後はできるだけ早めに測定します。酸濃度が高いので、保管容器からの溶出による汚染の恐れがあります。

 

2回にわたって、「マイクロ波前処理装置 操作上の10カ条」を紹介しました。
使ってみようかな、って思っていただけたら幸いです。


マイクロ波前処理装置 MPS 320

 

 

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