もう怖くない! マイクロ波前処理装置 ~前編~ | 前処理、AASラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

もう怖くない! マイクロ波前処理装置 ~前編~

 破裂するから導入はちょっと…、うまくいく時といかない時があるからもう使わない、前任者が辞めちゃったので長期間放置しています、とよく耳にします。ですが、間違った使い方をしなければ、とても安全で便利なマイクロ波前処理装置。パーキンエルマーの無機分析セミナーでも紹介してきた「マイクロ波前処理装置 操作上の10カ条」を復習していきますので、これを機にマイクロ波前処理装置を活用してみませんか。
 今回は、第1条から第5条までを、ラボでの事例もあわせて紹介します。

 

第1条 容器の耐性を考慮して使用する容器を選びましょう

 耐圧性に優れているもの、耐圧性はそれほど優れていないが検体数が多く分解できるものなど、分解容器には種類があり、それぞれ使用可能な最高温度や最大圧力が設定されています。挙動が全くわからない未知サンプルを酸分解する時は、耐圧性の優れた容器を使用するのが良いでしょう。また、分解容器が石英製の場合、ふっ化水素酸を用いる酸分解には使用できません。
 忘れがちなのが、センサーなど内挿するプローブ類。材質によって使用できない酸がありますので、お使いの装置マニュアルなどで再度確認をしてください。
 ちなみに、パーキンエルマー社製 MPS 320 はプローブタイプのセンサーを使用していませんので、余計な心配はいりません。(MPS 320 はこちら

 

第2条 容器の外側に水滴(試薬含む)やゴミなどの付着がないように

 容器の外側に水分やゴミなどが付着していると、マイクロ波の照射がそこに集中しやすくなります。過熱の原因になり、容器の破損や加熱効率の悪化につながります。
 パーキンエルマー社製 MPS 320 のように非接触式センサーを搭載している装置では、センサーが読み取る部分をきれいにしておきます。汚れは誤動作の原因にもなります。MPS 320 は容器の底面から温度を読み取っていますので、ラボでは使用前に汚れがないことを確認しています。
 デモンストレーションなどで、「容器に番号やサンプル名を書いて良いですか?」 とよく聞かれます。書きたくなる気持ちはよくわかりますが、容器にペンで文字を書くのはやめましょう。

 

第3条 サンプルはより細かく小さく

 サンプルが塊状では試薬がサンプル内部まで到達するのに時間がかかり、分解に時間が長くなるだけではなく、完全分解できないこともあります。粉砕するなどしてサンプルを細かくしておくと、効率よく分解が進みます。シート状のものはクチャクチャっと丸めずに短冊状に切るなどして、サンプルが試薬に浸るよう工夫してみてください。
 大切なのはその作業で汚染させないこと。ICP-MS(NexION はこちら)で分析をされている方、Fe や Cr を測定するサンプル、ステンレス製のハサミでチョキン!ってことがないように。測定結果に思わぬ影響が!


なるべく細かく・・・

短冊状にカット

 

第4条 性質の異なるサンプルは同時に分解しない

 マイクロ波前処理装置は、温度や圧力をモニターしながらマイクロ波を照射しています。温度や圧力の上昇が緩やかな場合は、分解プログラムに沿うようマイクロ波を断続的に照射します。また、運転中に制限温度/圧力を検知するとマイクロ波の照射を弱め、安全に分解が進むようコントロールします。

マイクロ波の出力を示したグラフ。出力をコントロールしていることがわかります。
(横軸:分解時間、縦軸:最大出力を 100%としたときの相対出力)

 

 多種のサンプルを同時に酸分解しようとした時に難分解性のサンプルがいくつか混ざると、分解が進行している容器内では圧力がどんどん上昇します。その結果、装置の圧力センサーが働き、プログラムの途中からマイクロ波の照射が弱くなって難分解性試料が完全に分解しなかったということがあります。有機物を酸分解すると反応ガスが多量に発生しますので、有機物と無機物を同時に分解するのは避けた方が無難です。
 また、サンプルの性質だけでなく、添加する混酸の組成も影響します。塩酸の添加量が多いと反応ガス量も多くなる傾向があるので、容器ごとに酸の組成を変えてしまうと、前述の例と同じようなことが起きてしまいます。

 

第5条 サンプル採取量や酸の添加量に注意しましょう

 サンプル採取量が多い場合、完全分解しなかったり、反応ガスが多量に発生して容器を損傷したりする恐れがあります。また、少なすぎると、偏析などにより分析結果に影響を及ぼすことも。
 サンプル採取量は 0.1 g~0.5 g を目安としてください。これは乾燥した状態での重量です。水分を多く含むサンプルは、その水分を加味して採取してもかまいません。未知サンプルの場合は、0.1 g~0.2 g 程度から検討していくことを推奨しています。
 注意してほしいサンプルは有機物。油、香料、プラスチックなどは、0.1 g 程度から試していくことをお願いしています。ラボではいろいろなサンプルを分解していますが、圧力が急上昇したものは、玄米、ゴマ、香料、医薬品用カプセルが記憶にあります。このようなサンプルは、採取量を減らすかマイクロ波の照射を緩やかにして、容器の損傷を防ぎます。
 また、使用する装置によって、酸の添加できる量が決まっています。5 mL~10 mL というのが一般的なようですが、装置や使用する容器によって異なりますので、お使いの装置や容器での適量を再度確認してみてください。必ず守ってほしいことは、最少量以下にはしないこと。酸の添加量が少ないと、過熱や温度ばらつきの原因になります。

今回は第5条まで。続きは次回で紹介します。

 

 

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