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ICP質量分析装置でAsを測定する場合、価数を気にしていますか?

あなたは、ICP質量分析法において As を測定する際、As の価数に注意していますか?

 

ここに注意しないと正しい値が得られないこともあるのです。
市販されている As の標準液には As3+ と As5+ があります。
サンプルを測定する場合、どちらの標準液を使用してもよいのでしょうか?

実は、ICP 発光分光分析法や ICP 質量分析法において As3+ と As5+ では感度が異なるという論文が出ています。
これは元々、平成 15 年に公布された環境省告示 19 号の土壌汚染対策法(土壌を塩酸で抽出して測定するという内容)に関する学会発表で話題となりました。

検量線は塩酸酸性での溶液なので、As3+ となりますが、サンプルは塩酸で抽出しているにも関わらず、サンプルに含まれる成分によって実は As5+ となってしまいます。
更に塩酸を含むため、As に対して ArCl や CaCl の干渉があり、H2 ガスや He ガスでこのスペクトル干渉を除去した場合においても 10% 以上の差が生じてしまいます。
つまり、このようなサンプル中の As の測定を行う場合には、何らかの前処理を行い、価数を合わせてから測定を行う必要があります。

 

一般的には As3+ と As5+ の感度差は 10% 以上あると報告されていますが、実はパーキンエルマーの ICP-MS では複数回のデータ採取においても 3% 以内の差であることも報告されています。
これは He ガスを用いても、O2 ガスや CH4 ガスでも同様でした。

この問題は土壌汚染対策法のみならず、様々なサンプルで同様なことが言えます。

パーキンエルマー以外の装置では、サンプル中の As の価数を何らかの方法で確認し(例えば LC-ICP-MS など)、それに合わせた標準液を選択する必要があります。
パーキンエルマーの装置では、どちらの価数の As でも、感度差なく測定できる可能性が高いです。

 

一度、皆さんの持っている ICP 質量分析装置で、As3+ と As5+ の標準液でそれぞれ検量線を作成し、傾きに差が出るかを確認してみると良いかもしれません。
方法としては10 mg/L 程度以上の As3+ 標準液と As5+ 標準液を 1% 程度の硝酸によって ICP-MS の測定濃度レンジである数~数十 µg/L になるように複数本調製し、それぞれの溶液を用いて作成した As3+ と As5+ の検量線の傾きを比較することで感度に差があるかを確認できると思います。
ただし、As3+ と As5+ は希釈操作や保存条件によって価数変化を起こす可能性があるため、調製溶液はできるだけ早く測定に用いた方が、現象を確認しやすいかもしれません。

 

参考文献

ANALYTICAL SCIENCES JANUARY 2014, VOL. 30, 175
ANALYTICAL SCIENCES MAY 2014, VOL. 30, 609
Journal of Analytical Atomic Spectrometry., 2010, 25, 1682–1687
Talanta 73 (2007), 157

 

 

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