FTIRによる品質検査 -不良品の市場流出を防ぐ- | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

FTIRによる品質検査 -不良品の市場流出を防ぐ-

■はじめに

仕事上、製造業の品質管理部門のお客様とお話する機会が多くあります。先日もある大手メーカーを訪問した際、マネージャーの方が「自社の不良品を市場流出させないために、全力を尽くしているんですよ」と熱心に話されていたのがとても印象的でした。

一度不良品が市場に流出してしまうと、流出先の特定、回収、再供給、原因の突き止め、再発防止策導入に膨大なリソースが必要になる上、場合によっては取引先との信頼関係を損ねてしまうリスクがあります。

品質検査は、製造プロセスでの検査が行われる段階に応じて、受入検査 / 工程検査 / 最終検査 / 出荷前検査 など様々に分けられますが、どの段階の検査であっても本質的な目的は“不良品の次工程への流出を予防する”ことになります。そのため、正確な結果がすぐに得られるかが重要になってきます。

FTIR は製品中の材料中の官能基や、化学種、それらの組成比や濃度などの化学的な特徴を判別できます。今作った製品の化学的な特徴が過去に作ってきた良品と同じか比べることで、製品が良品か不良品かを短時間(数秒~数十秒程度) で見分けることが可能です

そこで、今回は製品の検査に FTIR を活用して良品/不良品を判別する方法やその考え方などの基礎的な内容をご説明します。さらに次回エントリでは応用編として、実際の運用でよくみられる問題点とその解決方法についてご説明する予定です。

 

■良品/不良品を判別する方法

さて、化学的な特徴の一致度合いを数値化するにはどのようにすればよいでしょうか?基準となる吸収スペクトルに対して検査品の吸収スペクトルが統計的にどれだけ一致するかを計算する、といった方法が一般的に取られます。代表的な方法は相関係数です。2 つの吸収スペクトルの相関係数を使って一致度を判断します。

2 つの吸収スペクトルの相関係数から一致度がわかる、というのはどういうことでしょうか?イメージを図1, 図2 に示しました。ここでは例として、ある製造工程で製造した検査品と、基準品を用いて、それぞれの FTIR スペクトル(検査品スペクトル、基準スペクトル)の間の一致度を相関係数で比較することを想定して書いています。

まず図1 左上(青色)は検査品のスペクトルです。また、図1 右下(黒色)は基準スペクトルです。基準スペクトルと検査品スペクトルが類似しているかを目視で認識しやすくするため、基準スペクトルは 90 度回転させて、なおかつ波数方向に反転させています。検査品と基準の各スペクトルを見比べると、パターンが類似していることがわかります。

このような 2 つの吸収スペクトルに対して散布図(右上)を作成しました。散布図の Y 軸には検査品スペクトルの吸光度を、X 軸には基準スペクトルの吸光度を取ります。この散布図上に、それぞれのスペクトルの同一波数における吸光度を全てプロットしました。検査品スペクトルが比較したい良品スペクトルのパターンと近いほど相関は高くなります。この時の相関係数(R)を一致度の指標として使います。図1 では R = 0.9927 となり、検査品は基準に対してよく一致しています。


図1 相関係数のイメージ(相関が高い場合)

 

逆に 2 つのスペクトルパターンが一致しない場合は、相関係数が小さくなります。下図の赤色のスペクトルは先ほどとは異なる検査品のスペクトルです。明らかに良品とは異なるスペクトルパターンを示しています。同様に散布図を描きました。2 つのスペクトルの相関は低く、相関係数も R = 0.0008 と低い値になっています。


図2 相関係数のイメージ(相関が低い場合)

 

このように、相関係数を使うことで、製品の化学的な特徴について基準スペクトルとの一致度を数値化することができます。

これって検索の仕組みと同じでは?と、思われた方がいるかもしれません。そのとおりです。データベースを使った検索も、基本的には同様の考え方で検索スコアの値を算出しています。つまり、データベース内に格納されたリファレンススペクトルに対して、測定した未知スペクトルの相関係数を求める、ということですね。検索を実行すると、膨大なデータベースの各リファレンススペクトルに対する未知スペクトルの相関係数が計算され、値が高い順に並び替えられて結果リストに表示されます。

検索の場合は未知のスペクトルを定性することが目的ですので、使うべき基準スペクトルは様々な種類のスペクトルが格納されたデータベース(ライブラリ)です。一方、品質検査の場合、基準スペクトルは “良品”です。良品に対して検査品がどれだけ一致しているかを比較します。Spectrum 10 ソフトウェアには、このように相関係数に基づいたスペクトルパターンの一致度を品質検査に活用することを前提に設計された “コンペア” という機能が用意されています。

 

■コンペアとは

繰り返しになりますが、検査品が良品に対して化学的にどの程度一致するかの尺度で比較するための機能が、Spectrum 10 ソフトウェアのコンペア機能です。

検査品のスペクトルを選択した後、コンペア アイコンをクリックして実行すると、あらかじめ登録しておいた良品スペクトルに対する相関係数を計算して表示します。加えて相関係数の値に対して合否の判定基準を設定することができます。このとき、設定した相関係数値を超えると「合格」、下回ると「不合格」が表示されます。下図は PET 樹脂に対してコンペアを実行した後の画面です。合否の判定基準は 0.985 に設定してあります。1 つめに測定したスペクトルは相関係数が 0.9992 で「合格」と表示されていることがわかります。一方で、3 つめに測定したスペクトルは相関係数が 0.5372 で「不合格」と表示されています。合否結果が示されることで、誰が結果を見ても検査品に問題があるかないかが一目で判断できます。


図3 コンペアの実行後画面

 

■合否の判定基準をどう設定するか

合否の判定基準をどのように設定するかは、コンペア機能の最も重要な要素の一つになります。基準は検査の運用を開始する前の予備的な実験であらかじめ決めておく必要があります。

 最もわかりやすく、明確な方法を例にとりました。まず事前に一定数の良品、不良品を入手し、それぞれFTIRで測定します。

 次に、良品スペクトルのうち基準となる1本を選び、基準スペクトル(コンペアリファレンス)として設定します。コンペアリファレンスの設定は、設定コンペア追加 を選択し、対象のスペクトルを選択します。

 続いて、良品サンプルの残りと不良品サンプルを選択し、これらのスペクトルのコンペアを実行します。コンペアは複数のスペクトルに対してまとめて実行できます。

 最後に、算出された結果を良品と不良品に分けて確認します。良品サンプルの計算結果から合格の下限が、不良品サンプルの結果から不合格の上限が判断できますので、合否ラインをこれらの間に設定します。


図4 合否ラインの設定

 

■まとめ

このように、良品と製品の化学的な特徴の一致度を数値化することで、検査品の合否を簡単に判定することができます。

今回は合否判定基準を良品と不良品の間として設定しましたが、製品にはばらつきがありますので、実際には今回ご紹介した最も基本的な方法だけでは、このようにきれいに合否の境目にラインが引けない、などのケースも出てきます。

次回は、そのような場合の対処方法についてご説明します。お楽しみに!

 

 

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