微分スペクトルのピークを定量してみよう | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

微分スペクトルのピークを定量してみよう

前回・前々回のエントリで、微分によりスペクトルのベースラインを補正し平坦にできること、ピークを分離できることがわかりました。今回は 3 回シリーズのまとめとして、微分スペクトルのピーク高さを計測し、定量する方法と注意点をご紹介します。

過去のエントリでもスペクトルの定量は何度か取り上げていますが、定量分析に関するエントリは FTIR ブログの中でもアクセス数が多くなっています。ピーク強度の数値化に悩まれている方はとても多いのだな、、と感じています。

 

■【用語の整理】

前回、前々回を読み飛ばした方のために、今回のエントリで使う用語を整理しました。

  • 微分スペクトル
    微分処理を加えたスペクトルのこと。1 次微分, 2 次微分が使われることが多い。まれに 4 次微分以上の高次微分が使われることもある。
  • 2 次微分スペクトル
    2 次微分処理を加えたスペクトルのこと。ピークトップは負の数になるので、定量する際は一般的に正負の符号を反転させる。
  • ゼロクロシングポイント
    微分スペクトルが縦軸の0点と交差する点。

 

■どうやって定量するの?

微分スペクトルの定量方法は、過去に以下のような様々な方法が提案されています1)。この中から、今回は代表的な 4つの方法をご紹介します。

 

■ 0 to ピーク法

0 to ピーク法では単純に吸光度 0 の位置からのピークの吸光度を計測します。もっともシンプルな方法です。微分の目的がスペクトルのベースラインの補正である場合、微分後のスペクトルを定量するのはこの方法がお勧めです。


図1 0 to ピーク法による定量。生データ(a), 1次微分(b), 2次微分(c)

 

■ ピーク to ピーク法

0 to ピーク法は、目的ピークの隣にピークがあるような場合、隣のピークの影響を大きく受けてしまいます。そのような場合はピーク to ピーク法が適しています。基準となる正のピークまたは負のピーク強度をベースポイントに設定し、ベースポイントから目的ピークのピークトップまでの高さを計測します。
ピーク to ピーク法は大きなピークのショルダー付近にあるピークを定量する場合に向いています。


図2 ピーク to ピーク法による定量。生データ(a), 1次微分(b), 2次微分(c)

 

■ 接線法

ピーク to ピーク法は広く使われる方法ですが、分離したいピークが近接している場合や、多数のピークが重なり合っている場合、誤差が大きくなってしまいます。そのような場合は接線法がお勧めです。ピーク to ピーク法ではベースポイントを 1 カ所指定しましたが、接線法ではベースポイントをピークトップの左右に 1 カ所づつ、2 カ所取り、ベースポイント間に引いた直線からピークトップまでの高さを計測します。以下は重なり合った 3 つのスペクトルのうち、中央のオレンジ色のピークを接線法で定量する際のイメージです。


図3 接線法による定量。生データ(左), 2次微分(右)

 

■ ゼロクロシング法

この方法は測定サンプルが既知であり、定量したい物質のスペクトルとマトリクス -つまり、測定サンプルから定量したい物質を除いたもの- のスペクトルがそれぞれ別個に得られる場合に適用できます。0 to ピーク法と似ていますが、ベースポイントをゼロクロシングポイントに設定する点がユニークです。

まずマトリクスのスペクトル (下図の緑色線) を微分し、ゼロクロシングポイントの位置を確認します。その後、測定したいサンプルのスペクトルを微分し、先ほど確認したゼロクロシングポイントにおけるピーク高さを求めます。


図4 ゼロクロシング法による定量。生データ(a), 1次微分(b), 2次微分(c)

 

仮にマトリクスのピーク強度が変動しても、ゼロクロシングポイントでのマトリクスの縦軸値はゼロになります。なので、定量したいスペクトル (図の黄色線) のピーク強度にマトリクスの影響が入らない、という利点があります。

 

 

■水中の界面活性剤の濃度定量

ここからは実際の測定例として純水中の界面活性剤濃度の定量を紹介します。今回は ① 通常のスペクトルからピーク高さを求めて定量する方法、 ② 2 次微分スペクトルから定量する方法、の両方で定量し、結果を比較しました。FTIR は Spectrum 3 を使用し、ATR 法で測定しています。クリスタルはダイヤモンドを使用し、分解能 4 cm-1、積算回数 4 回の条件で測定しました。

まず生データを見てみると、1060 cm-1 と 980 cm-1 付近に界面活性剤のピークが見られます。スペクトル全体が右肩上がりのように見えますが、これはマトリクスである水の吸収によるものです。また、1130 ~ 1000 cm-1 の領域の吸光度のばらつきもマトリクスに起因すると考えられます。このスペクトルの 980 cm-1 のピーク高さを接線法で定量しました。定量に使用したベースポイント 2 カ所を結んだ接線を 10wt% に重ねて示してあります。


図5 水中の界面活性剤のスペクトル(生データ)

 

次に、このスペクトルを 2 次微分しました。水の吸収による右肩上がりと、1130 ~ 1000 cm-1 の領域の吸光度のばらつきが良好に補正されていることがわかります。これにより 1060 cm-1 と 980 cm-1 のピーク強度は、それぞれ界面活性剤濃度との高い相関関係が見られるようになりました。2 次微分スペクトルの 980 cm-1 のピークを 0 to ピーク法で定量しました。


図6 水中の界面活性剤のスペクトル(2次微分後)

 

それぞれの定量法で作成した検量線図を示します。生データを接線法で測定したスペクトルは、1~2wt% の低濃度領域の直線性がやや劣っています。それに対し、2 次微分スペクトルを 0 to ピーク法で定量した検量線は良好な直線性を保っており、高い決定係数 (R2 = 0.9997) を示しています。


図7 2つの定量方法で作成した検量線図

 

検量線の決定係数が改善された主な要因は、2 次微分によって吸光度のばらつきが良好に補正されたためと考えられます。

 

 

■まとめ

ピーク分離やベースライン補正した微分スペクトルのピーク高さの計測について 4 つの方法をご紹介し、それぞれの特長と注意点をご紹介しました。加えて、実際の微分スペクトルの定量分析の例をご紹介しました。
スペクトルを微分することで、これまで見過ごしていたピークの存在やその変化に気づき、数値化することができます。上手に活用することで、複雑な状況により良く対応できるようになります。

さて、ところで微分スペクトルを Spectrum IR ソフトウェアを使って数値化していると、しばしば定量数値の桁数が足りなくなってしまう、ということが起こります。そんなときは、Spectrum IR ソフトウェアの対応桁数を増やすなどの方法があります。というわけで、次回は定量値の表示桁数変更のtipsを中心に書きます。お楽しみに!

 

■参考文献

1) O’ Harver, G. L. Green, Anal. Chem., 48, 2, 312 (1976)
2) L. Dixit, S. Ram, Appl, Spect. Rev., 21(4), 311-418 (1985)

 

☆以下のエントリも参考になりますので、併せてご覧ください☆

 

 

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