“熱を操れ”に乗っかった熱分析を操れないって話... | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

“熱を操れ”に乗っかった熱分析を操れないって話...

オンラインでの講演に慣れることができない熱分析屋さんのつぶやき筆者です。
まずは
祝!久しぶりの2か月連続更新。
更新期間が長くなると、話を続けるのが難しい...やはり、継続は何とやら。

 

そういえば、2020年11月27日から物質・材料研究機構の NIMS week 2020 “熱を操れ” があるみたいです。オンライン開催で参加無料です。NIMS の紹介ムービーおもしろいです。何本もあるので“未来の科学者たちへ”ってググってみてください、ぜひ。

ちなみに熱分析関係だと、磁性転移の話とかクリープ試験の話とかありますし、分子分光関係だとインターフェログラムの話、無機分析の発光の話とかもあります。材料の話ですけど教科書片手に見ると、“あっ、教科書のここはこういう意味か”ってすごくわかりやすく説明されてます。チャンネル登録お願いします、だそうです。

 

さて、予告通り、熱分析の使い方・覚え方の話。
熱分析で測定するとき、試料側の話ってよく聞くけど、リファレンス側をどうしたらいいか、あまり書いてあることなくって、試料側より気にされないこと多いんですよね。結構重要なんですけど...

たとえば DTA とか DSC だとリファレンスは空容器だったり、アルミナ入れたり、どれが正しいことやら...
知っている人に聞いて「アルミナを使えば?」とか、「空容器を使いといいよ」とか、その情報をもとに何となく使っていることも多いみたいです。
参考書を見ても、なんと...出てない...ここは筆者の出番かも、と勝手に考えてます。

 

DSC と DTA のリファレンスと言いながら、DSC と TG-DTA の話だったりしてややこしいからかも、です。
今回は筆者が最初に考えるリファレンスの調整法、ちょっとまとめておきます。

 

DTAのときは、
試料量と同じくらいのリファレンスの質量を目安にして α - アルミナを使う。
「試料とリファレンスが同じように昇温される」ってところが大事です。難しく言うと熱容量が同じくらい...無機材料は試料と同じくらいの質量。高分子で試料の 1.5 倍くらいの質量が基準です。昇温や降温開始したときに DTA が 0 からあまり動かない様にするといいです。

 

TG-DTAのときは、
容器内の試料のカサが同じくらいになるような質量の α - アルミナを使う。
TG-DTA だと、試料の分解など質量が変わってしまうので、“おおよそ合わせる”で十分かも。増量・減量が少ないときには DTA のときと同じようなリファレンスの合わせ方してもいいです。 
どちらかというと TG-DTA は天びんと示差熱分析の同時測定なので、TG に合わせた方が結果がよくなります。TG ってガス流しながら測定するし、リファレンスと試料付近のガスの流れ方の影響って重要なんです。体の使い方で揚力の変わるインドア スカイダイビングをイメージするとわかりやすいのかも。
ガスの流れ方は“ほとんど”影響しないっていう人たちも多いですけど、それって装置の中の見えないところでいろいろ計算された結果には影響しないってことで、計算していくと、必ず影響するんですよね...簡単には見えませんが...
もし、TG-DTA の TG でドリフト(何もないのに増量したり減量したりすること、です)調子が悪い時にはリファレンスの質量を大小振って測定してみてください。改善することも多いので。
ただ、高温で容器が真っ赤になる温度(600 ℃ 以上くらい)の場合、リファレンスの質量は試料の残渣と同じくらいの質量にした方がきれいな DTA が取れることも多いので、どちらって言いきれないです。このあたりは材料から TG か DTA かどちらに合わせるか予想して使っています。

 

DSC の場合、ちょっと複雑で...
熱流束 DSC の場合、リファレンスの質量(容器の蓋の枚数とかアルミナの量とか)を調整して熱容量が近づく(昇温開始しても DSC 曲線がほぼ 0 位置を示す)と、温度の安定が早くなって昇温直後にピークが観察されるときのピーク温度が安定することがあります。ただし、測定で昇温するだけ、降温するだけの場合、安定した昇温・降温の温度範囲にピークがあるかエラーが見つけにくいので、要注意です。エラーを見つけるためには、昇温・降温の前のステップに等温を入れるか、リファレンスを空容器にした方が楽に判断できると思ってます。

入力補償 DSC の場合、基本はリファレンスが空容器。
空容器を使うからには昇温・降温の前後に等温ステップ入れてください、ぜひ。
入力補償 DSC でも、リファレンスの容量を調整することもあって、等温結晶化の等温保持の安定を限界まで早くしたいとき、とか、容器+試料の熱容量が大きい時にノイズを抑える効果のため(原理的に入力補償 DSC って試料側とリファレンス側、それぞれの熱抵抗の差が大きすぎると少しノイズが大きくなる傾向があります)、とか特殊な場合だけで基本的にリファレンスは空容器。

結構、気にしないリファレンス試料。筆者も熱分析の使い始めの頃は何となく準備してました。今になってみると、「なぜ誰も教えてくれなかったの!重要なのに!!」って思います...

 

リファレンスの質量を調整して 0 位置にする方法もついでに
DSC とか DTA は、

  1. 空パン(容器なしでもいいですけど、0 位置が合わないことも多いので空パンがいいかも。)で室温保持して DSC・DTA 曲線が安定している状態にします。
  2. 測定で用いる昇温速度で 5 分くらいの昇温・降温(20 ℃/min なら 120 ℃くらいまで)します。
  3. 昇温中に吸熱にシフトしたら、アルミナなどでリファレンスの質量を調節して、1,2 を繰り返します。(図では 0.75 mW 吸熱なので、リファレンスに α - アルミナを使います。発熱の場合は容器の蓋を切り落としたりして容器自体の重さを変えます)
  4. 昇温開始して DSC・DTA がおおよそ 0 になれば、それが自分の使う装置の 0 位置です。これが今現在の装置特性の温度分布。

この手順と同じように、容器に入れた試料でおおよそ 0 位置を合わせると、とっても水平なデータが取れます。融解とか結晶化とか、ピークだけ見る測定のときにはいいかもです。どんないい装置でも徐々に劣化していくので、時間がかかっても測定前に最初に自分で扱う装置の特性って知っておくと解析を楽にできます。うまく調整すると図の温度曲線の青〇部分(等温から昇温)の立ち上がりが一定になるのが遅くても、ベースライン安定して見えます(あくまでも見えるだけです...)


図 DSCのリファレンスの質量調整手順.サンプル・リファレンスに空容器使用.等温→昇温

 

今回はデータのないほぼ文章だけにしてみました。次回からも熱分析の覚え方で。もちろんデータも織り交ぜながら。

 

今年の更新は今回が最後です。来年の更新月はまだ確定していませんが、来年の更新の頃にはコロナってなんだったんだろうねって言える様になっていることを願いつつ。
では、2021年の更新でお会いしましょう。

 

 

 

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