ICP質量分析法における最大の問題点はスペクトル干渉だといわれています。
しかし、1999年にパーキンエルマーから発表されたDRC(ダイナミックリアクションセル)によってほとんどのスペクトル干渉は除去できるようになってきています。
前回、以下のような反応により Ca に対する Ar の干渉を除去する際の原理および反応セルには四重極マスフィルターが必要であることなどについて紹介しました。
40Ca+ + NH3 → 反応しない
40Ar+ + NH3 → 40Ar + NH3+
同様に塩酸中の As の場合、75As に対して、40Ar35Cl や 40Ca35Cl というスペクトル干渉が存在します。
これに NH3 を流すことによって ArCl を除去することが可能ですが、As もイオン化ポテンシャルが高いため、反応してしまいます。(As の感度が低下します。)
そこで、DRC 内に酸素(O2)を流し、As と O2 を反応させ、75As16O(m/z 91)として測定することが可能です。
一方、ArCl や CaCl は O2 と反応し m/z 91 にはなりません。
このようにセルガスと測定対象元素のみを反応させることによって生成する多原子イオンで測定を行うことをクラスター法(マスシフト法)と呼びます。
クラスター法はパーキンエルマーが 1999 年に開発した方法です。
しかし、m/z 91 には Zr があります。
少量の Zr であれば Zr も O2 と反応し ZrO(m/z 107)を生成するため干渉しませんが、多量の Zr が存在する場合には、残存する Zr が AsO に干渉します。
そのような場合、Multi-Quadrupole 形 ICP-MS を使用することで解決します。
Multi-Quadrupole 形 ICP-MS の構成は以下の通りです。
前述のように UCT(Q2) の中には四重極マスフィルターが搭載されています。
この前にもう一つ四重極マスフィルター(Q1)を設けています。
まず、Q1 を用いて m/z 75 のみ通過させ、91 に存在する Zr を除去します。
次の四重極(Q2)には O2 ガスを導入し AsO を生成させます。(ArCl や CaCl は O2 ガスと反応し、m/z 91 にはなりません。)
最後の四重極は m/z 91 のみが通過するため AsO のみを通過させることが出来ます。
来月開催される JASIS 2020 パーキンエルマージャパンのブースでは、反応セルに四重極マスフィルターを搭載したICP-MS NexION 2000 シリーズおよび、反応セルの手前にもう一つの四重極マスフィルターを搭載した真のマルチ四重極(四重極が4つ)ICP-MS NexION 5000 を展示して、皆様のお越しをお待ちしております。
NexION 5000 につきましては新技術説明会でも発表いたしますので、ぜひお立ち寄りください。(11月12日16:05~16:30 A-4会場)
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