ICPのポンプチューブ、最適な太さを選んだことありますか?~ポンプチューブ内径と、ばらつきの関係を見てみよう~ | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICPのポンプチューブ、最適な太さを選んだことありますか?
~ポンプチューブ内径と、ばらつきの関係を見てみよう~

 JASIS 2020 の新技術説明会で複数の分析データを一括して総合的に解析する手法について発表を予定しています。研究開発、品質管理、分類など皆様の測定データ解析に利用できる新しい解析手法を紹介したいと思っています。ぜひ参加してみてください。またブログのご質問やご感想もブースでお聞かせいただけることを楽しみにしております。

 

 さて、今日はサンプル送液に関する疑問についてです。ほとんどの ICP-OES や ICP-MS では、サンプルの送液にペリスタルティックポンプを使用しています。ペリスタルティックポンプには回転するローラーロッドが 6~12 本程度あり、これでチューブを圧し潰しながら回転することで溶液を送り出しています(負圧が発生して送っているのかなと思います)。空気を途中に噛んでも吸い込みが止まることはないし、サンプルに多少粘性があっても定容量送液が可能であり、送液に関しての物理干渉の影響も抑えることができ、低コストで ICP にとって適した送液方法の 1 つです。

 しかし、この送液方法は、脈流と呼ばれる変動があります。この脈流は、測定強度の変動にもつながる恐れがあります。理想的には無脈流のポンプ(シリンジタイプとか)が良い、と思う人も多いかと思います。変動を抑えることだけを考えたら負圧吸引(ポンプなしで同軸ネブライザーキャリヤーガスで発生する負圧を利用した吸引)が理想かもしれません(物理干渉には弱いですが)。

 そこで、ローラーロッドがコロコロ回転する間隔が狭ければ、それだけ脈流が小さくなる、ということで、ロッド数を増やしてみたり考えるわけですが、それほどばらつきが改善するわけではなかったりします。そもそもネブライザーの噴霧にも変動はあるし、チャンバーという霧の安定化に役立つパーツがあるため、取り立てて問題視するような脈流にはなっていないことも多い、と考えています。

 このペリスタルティックポンプの脈流の影響を無くしているのが、測定積分時間(正しくは読取時間かと)です。積分時間と表現すると理解に苦しみますが、何秒間強度を測定し平均値を取るか?というものです。
結局のところ、検出された強度にばらつきがあっても、たくさん平均を取っていけば、ある程度のところに値は収束していく、ということです。

 

 ということで、長々と書きましたが、ペリスタルティックポンプチューブの内径を変えて、一定流速で測定(細いチューブは回転が速く、太いチューブは回転が遅くなる)したら、ペリスタルティックポンプの回転速度が上がる細いチューブは脈流が減るのか?ということと、脈流の影響は何秒積分すれば回避できるのか?という点について実験的に検証しました。果たしてパーキンエルマー ICP-OES の標準サンプルチューブ(黒/黒:0.76 mm i.d.)は最適なのか?

 測定は Mn 257.610 nm で検証しました。

 

 上記に示した図のように、影響があるような無いような感じではありますが、今回の結果からは、積分時間が短い測定の場合(ばらつきが大きくなるような場合)、ポンプチューブ内径が細いほうが RSD が小さく抑えられていることが確認できました。もちろん各測定点自体にもばらつきがありますが、少なからずポンプチューブの内径は脈流に影響を与えていると考えられます。しかし、積分時間を 20 秒にすると、ポンプチューブ内径違いで RSD の差はほとんど見られませんでした。負圧吸引による測定とも大差がないことから、脈流の影響は低減してきている、と考えていいのではないでしょうか。ただ、いずれにしましても、RSD の差は、同一積分時間の条件下においては、ポンプチューブ内径を変えても RSD 0.1~0.2 % 以下の差くらいしかありません。この差を大きいと見るかどうかは、分析目的次第です。

※RSD は発光強度にも依存します。今回の試験は流速が一定なので強度はほぼ同一、という条件です。なお、測定のばらつきが大きく見られるように低濃度域で測定検証しています。

 

 多元素同時測定タイプの ICP-OES では、測定元素がいくつあっても測定時間はほぼ変わりません。1 回測定における積分時間を長く設定しても良いため、ポンプの脈流はあまり影響してこないと言えます。ポンプチューブの太さは、細いほうが脈流は少ない傾向は出ますが、積分時間の設定で差は抑えられます。一方で、細いポンプチューブのほうが摩耗劣化は速い可能性もあります。もちろん、負圧吸引の測定シグナル安定性は理想的ではありますので、目的によって使い分けると良いでしょう。

今回使ったペリスタルティックポンプチューブ;
内径 0.76 ㎜ 品番:09908587 品名:サンプリングチューブ(12本入)黒/黒 ※標準品
内径 0.51 ㎜ 品番:N0777476 品名:サンプリングチューブ(Flared)オレンジ/黄 PK/12
内径 0.38 ㎜ 品番:N0777042 品名:サンプリングチューブ(Flared)オレンジ/緑 PK/12

 

 では、私はどれを使うか?というと、悩ましいですが、メーカー標準品に逆らって、しばらくは 0.51 ㎜ を使ってみようかなと思います。

今回も実験データですので、毎回これが再現するとは限りません(ばらつきの違いを見るには、より沢山のデータが必要です。今回は傾向を見たに過ぎません)。チューブの締め付け具合や、劣化度合い、粘性などによっても脈流に影響を与えます。

Avio ソフト (Syngistix ICP ver. 5.0 以降)は、繰返し測定データや RSD をワンクリックで表示確認(エクセルへのエクスポートも)することもできます。RSD を見ておくことで、自分の求めている再現性が確保できているかどうかチェックしつつ測定をしたいですね。

 

下記の記事も合わせて読んでいただけると、参考になると思います。

第11回:測定積分時間は何秒に設定していますか?それは適切な値ですか?(2017/1/10)
第18回:ICP発光の細かい使い方講座1~積分時間と繰り返し回数、定量精度とコスト~ (2019/4/23)

 

 

 

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