難しいサンプルを測定するときはロバストなプラズマで? | ICP-MSラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

難しいサンプルを測定するときはロバストなプラズマで?

前回、ICP質量分析装置における感度調整とは出来るだけ感度を高くすることではないということをお話ししました。
ある程度感度を出しつつ、出てはいけないものが出ない条件です。
つまり、低マス、中マス、高マスの元素の感度や酸化物生成比、2価イオン生成比、バックグラウンド強度をチェックし、これらをクリアすることで装置が正常であることが確認できます。(デイリーパフォーマンスチェック)
ここで勘違いしてはいけないのはこの結果はあくまでも装置が正常であることを確認するものであり、この条件でどんなサンプルでも測定できるという事ではありません。

サンプルを定量する際には、まずは、定性分析(第6回のブログを参照ください)を行い、どのようなマトリックスが含まれているかを確認しましょう。
マトリックスが含まれている場合には、添加回収実験(第5回のブログを参照ください)により良好な結果(回収率)が得られるかをチェックしましょう。
もし、良好な回収率が得られなかった場合には、サンプルを希釈する、マトリックスを除去するなどの前処理を行う方法がありますが、測定条件においてもある程度改善する可能性があります。
一般的にはRF出力を高くし、キャリヤーガス流量を低くすることなどです。
先程のデイリーパフォーマンスチェックにおいて、酸化物生成比は基本的な基準で 2.5 %以下になるように調整しています。
この酸化物生成比をより低い値になるように調整することで、回収率が改善することがあります。
具体的には下図のようにキャリヤーガス流量は低くするほど、酸化物生成比(CeO/Ce)も低くなります。

 

これはキャリヤーガス流量を低くすることで、プラズマのエネルギーが高くなったと考えられます。RF出力を高くすることでも同様なことが言えます。(ホットプラズマ)
しかし、この図のようにキャリヤーガス流量を低くすることで著しく感度低下が起こるので注意が必要です。

このようなエネルギーの高いプラズマにより回収率が改善することもあります。
つまり、マトリックスが有っても無くても感度が変わらないという状態になります。
このような状態をロバストなプラズマと言います。
特に難しい(マトリックス濃度が高い)サンプルを測定するときには感度を高くすることだけを考えずに時には感度を落として測定することも有効なのです。

しかし、このようなロバストなプラズマの場合、アルゴンのイオン化が進むため、特にアルゴンに起因するスペクトル干渉(K に対する ArH、Ca に対する Ar、Fe に対する ArO など)が大きくなります。
良好な回収率を得るためにスペクトル干渉が出てしまっては意味がありません。
このようなスペクトル干渉の除去にはコールドプラズマという温度の低いプラズマが用いられてきましたが、これでは良好な回収率が得られません。
つまり、ホットプラズマ条件下でスペクトル干渉の除去が可能であるDRC(ダイナミックリアクションセル)法などがこれらの難しいサンプルの測定には有効なのです。

 

 

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