データベース検索を活用した異物の分析解析方法 | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

データベース検索を活用した異物の分析解析方法

 製品中の異物発生率の抑制は、生産工程や品質管理にとって非常に重要です。異物の発生率を 5% から 1% に、 1% から 0.1% に抑えるため、メーカーの技術者は日々努力を重ねています。そんな悩ましい異物の出所を突き止めるプロセスは、その異物を様々な方法で観察・分析し、その結果から異物の原因候補を類推していくところから始まります。
 中でも、異物が何の材料で構成されているかを知ることは特に重要です。異物の原因候補を大きく絞り込むことができるからです。FTIR は異物の材質を知るのにとても有効です。こういった分析を一般的に定性分析といいます。今回のエントリは、異物の定性分析にあたり、何をすればよいか?を中心に書きました。

 

■異物のATR測定

 さて異物を FTIR で分析する際、どのような方法をとればよいのでしょうか。一口に FTIR と言っても、測定対象に応じて非常に豊富な分析方法があります。ATR 法は、その中でも最も簡単な方法です。
 ATR 法では ATR クリスタルの上にサンプルを載せ、圧力アームでサンプルをクリスタルと密着させて測定する方法です。Spectrum Two FTIR の ATR クリスタル上に、大きさ約 1 mm 角の白色の異物サンプル A を、ピンセットを使って載せました。


図1 異物 A の写真と ATR クリスタル

 この異物を分解能 4 cm-1、波数範囲 4000 - 400 cm-1、積算回数 4 回の条件で測定しました。測定条件の設定方法は、過去のエントリが参考になりますので、併せてご覧ください。また、同じ手順で異物 B も測定しました。

 

■データベース検索と検索スコア

 測定の結果、図 2 のような異物 A のスペクトルが得られました。


図2 異物A

さてこのスペクトルから異物が何の物質でできているかわかりますか?ピークの数が多く、スペクトルを見ただけではわからない方も多いかと思います。データベース検索を利用しましょう。
 一般的な FTIR 解析ソフトにはあらかじめ様々な物質のスペクトルを集めたスペクトルデータベースが用意されています。このデータベースは「ライブラリ」とも呼ばれます。Spectrum10 ソフトウェアの「検索」アイコンをクリックすると、データベースの中からサンプルスペクトルの形状と近いリファレンススペクトルが自動で検索され、検索スコアが高い順にリスト化して表示されます。検索スコアとはサンプルスペクトルとリファレンススペクトルの相関係数を示しています。完全一致は 1.0 で、数値が小さくなるほどスペクトル形状が離れていることを示します。


図3 異物 A の検索結果 異物 A(黒) リファレンスのパルプ(赤) 

 異物 A を検索した結果、データベース中のパルプがヒットしました。図 2 中の黒が異物 A のスペクトル、赤がパルプのスペクトルです。検索スコアは 0.98 でした。

 検索スコアはどの値以上ならヒットした物質と同じと言えるのでしょうか?
残念ながらその問いに答えはありません。0.95 で異なる物質の場合もあれば、逆に 0.85 で同一の物質の場合もあります。相関係数は、異物とリファレンスの 2 つのスペクトルの間に「差がどれだけあるか」を統計学的な方法で数値化したものです。ですので、化学的または分光学的に意味のある小さな差を拾い切れないことがあります。また、検索スコアの最上位に異物の真の材質から最も近い物質が表示されるとも限りません。
 これらの理由から、検索スコアの値を定性の判断基準にするのはあまり良い方法ではありません。検索結果の一覧はあくまで“異物の正解候補のリスト”と捉えておいた方が良いでしょう。

 

■ピーク波数位置の一致で判断する

 測定した異物のスペクトルがリファレンススペクトルと一致しているかは、スペクトルのピーク波数位置で判断します。赤外分光法は、官能基や原子団あるいは分子自身の振動を、赤外光の吸収波数位置や吸収強度を通して知る分析方法です。異物とリファレンスのピーク波数位置が一致するということは、異物はリファレンスと同じ官能基、分子構造を持つことを意味します。

 ピークの特性を示すほかの要素、例えばピーク強度やピーク形状は、サンプルとリファレンスの間で同じになるのが理想です。しかしこれらはサンプルとリファレンスを同じ方法、つまり同じメーカーの FTIR で、同じ分析条件で測定しない限り、いくらかはズレる可能性があります。メーカー間で装置の光学系や推奨されるアポダイゼーション関数(フーリエ変換処理前のデータに施される補正処理のひとつ)が異なること等が主な原因です。

 図 4 に、異物 A の測定結果とリファレンススペクトルのピーク位置を比較した結果を示しました。異物 A のピークの波数位置がリファレンススペクトルと全て一致しているため、異物 A はリファレンスと同じ物質であると言えます。


図4 異物 A のスペクトルの定性判断

 サンプルがリファレンスのピーク位置と完全に一致するケースは、ある意味運が良いと言えます。実際に異物分析をしてみると、ピーク位置が一致しない事の方が多いものです。このような場合はデータベースに登録されていない他の物質や、混合物の可能性を疑った方が良いでしょう。
 異物は混合物であることが多いです。異物に液体や機械油が染み込んでいる場合もあります。多くのポリマーやゴムには着色剤、補強材、充填剤、可塑剤、酸化防止剤など多数の添加材が入っており、これらの製品はそれ自身が混合物です。図 5 に異物 B のスペクトルと検索結果を示します。


図5 異物 B のスペクトルと検索結果

異物 B の検索スコアは 0.93 と高い値を示しています。●のピーク位置は一致していないため、異物 B とリファレンスが同じ物質とは言えません。ただしリファレンススペクトルに対して一部のピーク波数位置はよく一致しています。ので、リファレンス物質と何かの混合物の可能性が高いと言えます。
 では異物が混合物だった場合の解析はどのような方法があるでしょうか。よく使われる方法として、差スペクトルや混合物検索お勧めです。このあたりは次回以降に書いていきます。

 

■まとめ

 未知物質の定性は、波数位置の一致を基準に決めることをお勧めします。検索スコアの高さを基準に決めるのは、明確でわかりやすく簡単な方法ですが、時に小さなピークの違いに気づかず、混合物の存在の判断を誤ることがあるので要注意です。
また、FTIR のデータだけから異物の定性判断しようとせず、色・形・大きさ・触った感じなどの異物の1次情報や、SEM、EDS、XRF、XPS、MS など、赤外分光法とは異なる角度からの分析データと照らし合わせることで結果の確度を上げることも重要です。

次回は差スペクトルの取り方について書きます。お楽しみに!

 

 

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