今回のテーマは「測定するサンプルを理解していますか?」です。
皆さんのサンプルにはどのようなマトリックスが含まれているのか?どれくらいの濃度の測定をしようとしているのか?本当にその内標準元素が使用できるのか?を理解していますか?
これらを理解していないと定量分析はできません。
これらを理解するために有効なのが定性(半定量)分析です。
定性分析ではできるだけ多くの元素を測定しておく必要があります。
定量分析では測定対象元素の標準液を準備することが必須ですが、定性分析では、すべての元素の標準液は必要ではありません。
ICP質量分析法における定性分析は、各元素の感度係数がソフトウェアに記憶されており、その係数を用いて、含まれていない元素についてもある程度の濃度レベルを求めることが出来ます。
このようにして 60~70 元素の濃度レベルを瞬時に求めることが出来るのです。
定性分析には主に以下の 3 つの目的があります。
- 目的対象元素のおおよその濃度レベルがわかる。
- その他の元素がどの程度含まれているかがわかる。
- 内標準元素が含まれていないかを確認できる。
定量分析を行うには検量線用標準液を調製する必要があります。
その標準液の濃度範囲は未知試料の場合、わからないことがありますので、1のように予めどの程度の濃度であるかを確認しておくと良いでしょう。
また、その際、他にどのような元素が含まれているかを確認しておくことでスペクトル干渉を予想することが出来ます。
ICP 質量分析法の場合、スペクトル干渉はある程度予想することが出来ます。
目的対象元素の質量数に対して、16 低い質量数、40 低い質量数、2 倍の質量数、1/2 の質量数などに注目してみてください。
例えば As(ヒ素)の場合、質量数は 75 のみなので、16 低い質量数は 59 になります。
59 には Co(コバルト)がありますので、サンプル中に多量の Co が含まれている場合、CoO (コバルトの酸化物)の干渉が起こる可能性があります。
つまり 16 というのは酸素の質量数になります。
同様に 40 低い質量数は 35 なので、Cl(塩素)がありますので、サンプル中に多量の Cl が含まれている場合、ArCl の干渉が起こる可能性があります。
つまり 40 というのはアルゴンの質量数になります。
ただし、酸素は 16 のみならず、17 や 18 も少なからず存在します。また、OH という可能性もあります。
アルゴンに関しても 36 や 38 の質量数も存在しますので、この付近の質量数に濃度の高い元素が無いかを確認すると良いでしょう。
また、2 倍の質量数は 150 です。150 には Sm(サマリウム)や Nd(ネオジム)が存在します。
これは 2 価イオンという干渉(Sm2+、Nd2+)で実際には質量数/電荷比なので、2 価イオンの場合には半分の位置に干渉があります。
同様に半分の位置にも注意が必要です。
例えば、Se(セレン)は質量数 80 が最もアバンダンスが高いですが、その半分の質量数は 40 です。
質量数 40 には Ca(カルシウム)や Ar(アルゴン)があります。
つまり、CaCa や ArAr が干渉します。
以上のように ICP 質量分析法におけるスペクトル干渉はある程度予想することが出来るのです。
そのためにはサンプル中に含まれる元素を理解することが重要です。
特に環境分析や材料分析では内標準補正法を用いることが多いと思われます。
内標準補正法に用いられる元素の条件は
- 測定対象元素の質量数に近い事。
- サンプル中に含まれていないこと(実際の濃度に影響しない程度であること)。
- プラズマ中で同様な挙動を示すこと。
- 他の元素に干渉しないこと。
などがあります。
ここで、定性分析を行っておくことで、特にサンプル中に含まれていないかどうかを確認することが出来ます。
以上のように定量分析の前に定性分析を行うことで多くの情報を得ることができ、良好な定量分析結果を得ることができる実は近道なのです。
皆さんもぜひ、定性分析をしてみてください。
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