定量分析 ピークの定量編 | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

定量分析 ピークの定量編

FTIR で混合物中の濃度を求める、官能基の変化を調べる、顕微 FTIR のマッピングやイメージングでピークの分布を可視化する、等の目的で、特定のピークを定量する場合があります。でもその定量方法、高さで測定すべき?面積で測定すべき?ベースラインの引き方は? 今回はピークの定量方法と定量条件を決める時の注意点についてご説明します。

■定量の基礎

FTIR で定量的な解析をする場合、スペクトルの表示形式が「吸光度」である必要があります。吸光度は濃度と光路長(赤外光がサンプルを透過する距離)に比例することが知られています。この法則を「ランベルト-ベールの法則」と呼びます。通常、光路長は一定として測定するので、吸光度は濃度との関係を知るのに都合が良いのです。一方、ピークが下向きの「透過率」は、濃度に比例しないので定量には向きません。まずはスペクトルの表示形式を確認し、透過率であれば吸光度に変換しましょう。


図1 ポリエチレンのFTIRスペクトル (上)透過率表示 (下)吸光度表示

 

■一般的なピークの定量方法

図1 のポリエチレンを例に、よく利用されるピークの定量方法の例をご説明します。まずベースポイントを2点取り、ベースポイント間を直線で結んだベースラインを引きます。次に高さで定量する場合、ピークトップの位置を指定します。面積で定量する場合、積算する波数範囲を指定します。最後にベースラインからの高さや面積を読み取ります。一連の操作は Spectrum IR ソフトウェア上で実行できます。「処理」タブのから実行できます。


図2 定量方法の例

図2のうち、(c) の方法は隣接ピークの影響を受けやすいので注意が必要です。隣接ピークのスペクトル強度がばらつくような場合、定量値の誤差が大きくなる恐れがあります。

 

■こんな場合どうしますか?

上記のポリエチレンは比較的わかりやすい例です。他にもピークの定量方法をいくつか示しました。

  1. 複数サンプル間でピーク位置が変化する場合
    スペクトル上のピーク波数位置は分子結合の振動数に基づいているので、分子の置かれた状況が変わると振動数が変化し、ピーク位置シフトを起こす事があります。また定量ピークに対して波数分解能が低い場合、ピークトップの波数位置がばらつくことがあります。このようにピークトップの位置がサンプルによって変動する場合、最大高さでの定量が適しています。最大高さは、指定した波数範囲の最大高さを取得しますので、ピーク位置変動の影響を軽減します。下のグラフの例では、赤色実線が波数範囲、赤色破線が定量波数です。

    図3 最大高さによる定量例

    ピーク位置シフトが発生しているように見えているが、実際は隣り合う近接したピークの強度比が変化しているだけ、という場合もあります。等吸収点が現れた場合は後者の可能性が高いです。このようなケースで最大高さを使用すると正しい定量結果が得られません。最大高さを使用できるのは単一のピークがシフトしている場合だけです。

  2. ベースポイントをピークの両裾で取れない場合
    着目ピークが測定したスペクトルの波数範囲の端付近にある場合等が該当します。この様なケースでは、まず波数範囲を更に広げて測定する事を第一に考えるべきですが、ソフトウェアの設定上、困難な場合もあります。そのような場合にベースラインを1点で取る事があります。

    図4 1点ベースラインのピーク定量例


  3. ベースラインの変動を定量する場合
    劣化オイルに含有するすす (soot) の分析ではベースラインの変動自体を定量します。すす等の微小なアモルファスカーボンはスペクトル全域で散乱を起こすため、高波数側ほど吸光度が高くなります。図5ではベースポイントを設定せず2000 cm-1 におけるベースラインの吸光度を読み取っています。この劣化オイル中のすすの分析は ASTM E 2412 で規格化されている分析方法です。

    図5 ベースライン変動の定量例

 

■まとめ

  • ピークを定量する際はスペクトルを吸光度表示にします。
  • ピークの両端の外側にベースポイントを置き、ベースラインとスペクトルの間の高さや面積で定量します。この時、隣接ピークからの影響が小さくなる取り方が好ましいです。
  • ベースポイントを2 箇所未満で取る方法や最大高さでの定量も場合によっては有効です。

 

今回はピークの定量方法について触れましたが、定量分析の目的は試料中の成分量を決定する事です。成分量既知の標準試料から得た定量データを使用して作成した検量線から、未知物質の成分量を予測する事ができます。検量線の作成方法はソフトを使用した定量計算のエントリで触れていますのでご覧ください。また、次回エントリは検量線と成分量予測について書く予定です。

 

!!告知です!!

パーキンエルマーのブログコーナーは各プロダクトのアプリケーションラボのメンバーが担当しています。今回、執筆担当が中心となり、有機系(赤外分光分析、熱分析、クロマトグラフィー)3プロダクト合同のセミナーを開催します! 

【有機材料技術者・研究者向けアプリケーションセミナー】

■日時 2019/11/15(金) 13:30~17:00(受付13:00~)
■場所 株式会社パーキンエルマージャパン 横浜本社
■定員 赤外分光分析:15名、熱分析:15名、クロマトグラフィ―:15名

FTIRのパートではBLOGで公開している内容をさらに深堀りしていきます。また、申込時、普段のお困りごとや疑問点など、事前質問を受け付けます。個別相談ご希望の方は、質問欄の質問公開 『非』 にチェックを入れてください。当日時間調整いたします。 

 

有機系アプリケーションラボチーム一同、ご参加をお待ちしております!

 

 

<< Prev
ATRクリスタル洗浄時の溶剤選択と注意点

Next >>
定量分析 単回帰分析編