今回は波数範囲についてです。波数範囲とは何か、何に基づいて決めるかについてご説明します。
■赤外光の波数範囲
赤外分光法では一般的に波長 0.7~2.5 µmの光を近赤外光、2.5~25 µmを中赤外光、25~1000 µm の光を遠赤外光として区別します。中赤外の 2.5~25 µmを波数に変換すると 4000~400 cm-1 となります。中赤外での測定は多くの場合、この 4000~400 cm-1 の中で波数範囲を設定して測定します。
■波数範囲の決め方
シングルビームスペクトルのエネルギー強度から測定可能な波数範囲を判断できます。 シングルビームスペクトルとは、サンプルを置かない状態で測定した時の赤外光のエネルギー強度スペクトルです。
図1 シングルビームスペクトル(透過測定時)
エネルギー強度が低い波数領域は相対的にノイズが大きくなります。そのような領域で低ノイズのスペクトルを得るには、積算回数を増やす、アパーチャサイズを大きくする、スキャン速度を遅くする等の条件調整が必要です。条件を変えることによるデメリットもありますので、過去エントリ積算回数、分解能等を参考に、分析の目的を考慮して設定する必要があります。
■光学材料の波数範囲
測定可能な波数範囲は、使用する光源、ビームスプリッタ、検出器の種類、透過測定時の窓材、ATR 測定時のクリスタルの種類等の光学材料の組み合わせによって決まります。FTIR でよく使われる光学材料の波数範囲をまとめました。
表1 光学材料の波数範囲1)
対象 |
用途 |
波数範囲 (cm-1) |
タングステンハロゲン光源 |
光源 |
25000 - 2400 |
セラミックス光源 |
光源 |
8000 - 30 |
KBr |
窓剤 |
40000 - 250 |
CsI |
窓剤 |
40000 - 130 |
CaF2 |
窓剤 |
77000 - 830 |
BaF2 |
窓剤 |
40000 - 670 |
ZnSe |
窓剤・ATRクリスタル
|
20000 - 500 |
Ge |
窓剤・ATRクリスタル |
5000 - 590 |
Diamond |
窓剤・ATRクリスタル |
40000 - 15 |
DTGS
|
検出素子 |
15000 - 370 |
MCT (Mid Band)
|
検出素子 |
7800 - 600 |
MCT (Wide Band) |
検出素子 |
7800 - 450 |
パーキンエルマーの FTIR にはアクセサリを含めた装置の光学系を自動認識して、最適スキャン範囲を示す機能があります。Spectrum IR ソフトウェアのメニューバーから 設定 → 分光器 を選び、下段のダイアログから 分光器の設定:光路 タブで確認できます。 波数範囲設定の参考としてご活用ください。
図2 最適スキャン範囲表示
■まとめ
波数範囲の設定は Spectrum IR ソフトウェア上の推奨波数範囲である程度判断できます。判断に迷った場合はシングルビームスペクトルを利用した波数範囲の決定が有効です。
1) 田隅三生,“赤外分光分析 基礎と最新手法”,社団法人日本分光学会編集員会 (2012)
次回は“ATRクリスタルの洗浄溶剤“をテーマに執筆予定です。お楽しみに!
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