第67回 【身近に迫る自動化】ICP分析でも「手作業」が変わりはじめています

更新日: 2025/11/21

ICPを使った分析で最も大事な作業のひとつ――それは検量線の作成や溶液の希釈。この工程は定量精度に直結するため、まさに分析技術者の腕の見せどころですよね。ところが最近、この“職人技”の世界にも自動化の波が押し寄せています。

「もし自動で希釈や再測定までやってくれたら?」
「自動化した検量線って、どんな直線を描くんだろう?」

今回は、そんな身近に迫るICP自動化への第一歩として、オンライン自動希釈装置を使った測定の世界を少しだけご紹介します。

 

検量線を測定するための標準液を調製し、サンプルも希釈調製する、この行為にそれぞれ個人差のバイアスのかかった誤差を含みます。そのため、作業者が異なると結果に差がでる可能性もあります。これらの希釈作業を装置に任せてしまうと、個人差の全くない結果を誰でも出すことができる、理想的な運用ができるはずです。

 

自動希釈装置には

  • オンライン
  • オフライン

の2種類があります。オンラインはオートサンプラーでサンプルを吸い上げ、ネブライザーで噴霧するまでの過程において、流路上で希釈を行い測定溶液の準備をします。オフラインでは、オートサンプラーラック上のサンプル容器に分注する作業を機械的に実施するものです。オンラインは希釈装置:測定装置は1:1の関係ですが、オフラインの場合は、希釈装置1台で複数台の測定装置に利用できます。どちらも運用面のメリットを考えて選択されています。今回紹介するのはオンライン自動希釈機能付きオートサンプラーprepFAST 3です。

prepFAST 3 は、ICPのオートサンプラーに溶液を置いておくだけで、

  • 標準液元液からメソッドに指定した濃度に自動で希釈して
  • 指定した希釈倍率の検量線ポイントを作り
  • 検量線範囲を超えたサンプルは、範囲内に入るまで希釈し測定して
  • 流路洗浄も自動的にやってくれる
  • 流路内で液が混ざらないエアバブル方式や
  • 詰まり防止フィルター+バックフラッシュ機能による詰まりリスク回避機能

といった機能のある装置です。

 

特にこの装置に求めるものは、高濃度標準液を 1 本置くだけで多点検量線を引くことができることだと思います。今回は試しに 1 本の元液から 0.05、0.1、0.2 mg/L といった普通の定量分析に利用する濃度 1 桁範囲程度の検量線作成と、1~200 倍希釈の多点検量線、2 本の元液から 2000 倍範囲の多点検量線を作成し、その低濃度側の誤差をみました。個人的には検量線の濃度範囲は、1 桁程度の範囲で設定することが多いのですが、今回は 0.05~10 mg/L や、0.005~10 mg/L といった ICP-OES の広いダイナミックレンジを活用できるかも検証しました。


図 0, 0.05, 0.1, 0.2 mg/L範囲の検量線(標準元液10 mg/Lから自動希釈)

 

一般的に利用されるようなある程度範囲を定めた場合も問題なく検量線をひけました。次に、200倍希釈まで実施した場合は、


図 0.05~10 mg/L範囲の検量線(標準元液10 mg/Lから自動希釈)

 

10 mg/L まで作製したときの 0.050 mg/L は 1.8 % 程度の誤差の 0.049 mg/L と十分良い相関を示しました。次に元液を 2水準として 1 mg/L から希釈する 0.005~0.040 mg/L と 10 mg/L から希釈する 0.050~10 mg/L を 1本の検量線にしてみました。


図 0.005~10 mg/L範囲の検量線(標準元液1および10 mg/Lから自動希釈)

 

10 mg/L まで直線を書いたときの 0.005 mg/L は +3% 程度の誤差で収まりました。そもそも 5 μg/L の測定誤差も含むので十分精度が出ていると思います。
ちょっとずれてしまった点があってもパーキンエルマーICPのソフトウエアは、“その点だけ測定し直し”ができる再測定ボタンもあります。


写真 装置の横に希釈のためのシリンジシステムとバルブを設置

 


写真 2本のシリンジが指定濃度になるように自動制御

 


写真 デュアルモニターにすると分析画面と自動希釈動作状況を見やすくなります

 

自動希釈装置はもう身近なものになってきていると実感しました。自動化されたシステムを構築されたい場合はぜひご相談ください。デモ実演も可能です。
もちろん無希釈測定にも対応しています。