更新日: 2025/9/18
近年注目を集めるLA-ICP-MS。分析化学会でも発表件数が増えていますが、同じレーザーアブレーションを用いたLA-ICP-OESの報告はまだ多くありません。しかし、フェムト秒レーザーの登場により、定量分析への実用性に期待が高まっています。
「では実際に試してみたらどうなるのか?」— 今回、フェムト秒レーザー「Jupiter」をICP-OES Avio550に接続して測定を行い、その体験データを紹介します。前回のLA-ICP-OESの記事も多くの反響をいただきありがとうございます。
固体をそのまま測るという魅力
レーザーアブレーションをICP-OESに接続する最大のメリットは、固体試料を前処理なしで直接測定できる点です。酸分解による時間や労力、溶解効率のばらつき、コンタミネーションのリスクから解放され、サンプルを「そのまま」の状態で評価できます。
ICP-OESならではの価値
レーザーアブレーションといえば、一般には高感度なICP-MSとの組み合わせが多く用いられます。しかし、ICP-OESだからこそ活きる領域も存在します。ICP-OESは高濃度領域の定量にも強く、主成分濃度や分布を把握する上で大きなアドバンテージとなります。ICP-MSで課題となる飽和や干渉の問題も、OESであれば安定してクリアできます。
今回の測定風景

今回も株式会社エス・ティ・ジャパンさんのレーザーのスペシャリストにご指導いただきました。今回の装置は「Jupiter」です。装置サイズは少し大きいですが、シンプルな外見に多くの技術が詰まっています。
今回の測定では以下のデータを取得しました:
NIST SRM Glass 6xx シリーズを使用し、認証されているストロンチウム(Sr)濃度で検量線を作成しました。まず驚いたのは、信号の立ち上がりの速さと安定性でした。信号の安定性はサンプルの表面の研磨や設置の仕方、サンプルセル(試料室)などのノウハウもありそうですし、レーザーの出力や周波数、走査速度なども重要と思われました。条件さえ決まってしまえばルーチンワークにも簡単に利用できます。

連続測定時のSiとSrのシグナル

矩形0.7×0.8 ㎜にアブレーションの様子
得られる信号強度は安定しているものの、アブレーションする場所によって平滑さや高さなどが微妙に異なることが予想されるため、今回はガラス母材であるSi強度を内標準補正元素としてSr/Si比の検量線を作成しました。

Si補正したSr検量線(濃度範囲:46 ~ 515 mg/kg)
直線性が大変良く驚きの結果でした。Sr 以外にもいくつかICP-OESで測定できる濃度の元素がありましたが、いずれも良好な直線性が得られていました。今回は 500 mg/kg までの検量線ですが、さらに広い範囲も測定対象です。主成分の構成を見ていくうえで LA-ICP-OES の有効性を感じる結果でした。もちろん、パーキンエルマーのICP-OESはプラズマ先端をシェアガスシステムによってカットしているため、装置が汚れることなく安定的に分析を遂行することができます。検量線を作成するための標準物質さえあれば、手軽に始めることができる固体分析だと言えます。標準物質が手に入らない場合は、対策があるようで、それについてはまた次回以降に紹介できればと思っています。
フェムト秒 LA-ICP-OES のデータを取っていると、ナノ秒レーザーとの違いや、水溶液分析との違い、脱溶媒高効率導入系との比較など、いろいろ検証してみたくなりました。いくつかデータを取りましたので、その結果についても今後公開し皆様と共有していきたいと思います。
今日のまとめ
フェムト秒レーザーを利用できる Jupiter は、試料導入量の多さで ICP-OES の感度面を補い、定量分析の実用性を大きく広げてくれる期待の装置です。ガルバノ光学系による広範囲アブレーションの特長を活かし、固体直接分析の可能性をさらに探っていきたいと思います。今後はナノ秒レーザーとの比較データも公開し、皆様と共有していきたいと考えています。フェムト秒、ナノ秒レーザーでこんなサンプルを測定したい、といったご要望がありましたらぜひお問い合わせください。
レーザーアブレーション ICP-MS といえば東京大学の平田先生です。パーキンエルマー・オンデマンド配信のウェビナーで最先端のご研究を聞くことができます。ぜひご覧ください(申込期限2025.10.17)。