更新日: 2025/7/18
フレーム原子吸光法において、カドミウム(Cd)は検量線が曲線になりやすい傾向があります。本記事では、その実測データを紹介するとともに、検量線が曲がり始める濃度域を把握することで、推奨される定量範囲について考察します。

Cd 228.80 nm の検量線
線形性について
相関係数(r)から見る直線性
- 0 – 1.6 ppm の範囲でも r は 0.99019 程度となりました。
- さらに、5.0 ppm 以降になると相関係数は 0.77847 と急激に低下し、明確な直線性の逸脱が見られます。
推奨される検量線範囲
- 相関係数が r ≧ 0.999 を維持する範囲は、概ね 0 – 0.4 ppm までと考えられます。
- 1.0 ppm でも r = 0.996 と比較的高い値を示していますが、定量範囲の上限としてはやや不安ですね。
Cd の吸光特性が曲線になりやすい理由
1. 共鳴線の吸収強度が高い(高感度)
Cd 228.80 nmのような共鳴線は非常に強い吸収を示すため、少しの濃度増加でも吸光度が急激に上昇します。そのため、高濃度域では吸光度が飽和気味になりやすく、直線性を逸脱しやすくなります。
2. 自己吸収(self-absorption)
高濃度下では、自身で発光した光を吸収してしまうことで結果的に吸光度が低くなります。そのため、実際の濃度に対して吸光度が比例しなくなり、非線形性を示す領域が現れてきます。
3. 原子化効率の飽和
Cd は沸点が低く揮発性が高いため、フレーム中での原子化が非常に効率良く進みます。高濃度になると原子化が飽和して、吸光度の増加が鈍化してきます。
補足:対策と工夫
まとめ
カドミウムがAASで曲線になりやすいのは、「高感度・高原子化効率という特性ゆえに、直線的応答が飽和しやすいため」と考えられます。
検量線を作成する際には、0.2–1.0 ppm 程度の濃度範囲を直線域として利用することが望ましく、それを超える場合は希釈や曲線検量線の利用等をすることが良いでしょう。ICP-OES に比べると AAS では直線範囲は狭いですので、検量線の範囲決定は定量精度を確保するうえで重要です。
次回は、Mg, Na, Cd, Mn, Cu, Fe, Ni, Pb について、直線範囲の比較一覧を紹介します。

検量線範囲決定に向けた参考資料としてぜひご利用ください。