微量カリウムをICPで測定するためのメソッド~チャンピオンデータを目指して~ | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

微量カリウムをICPで測定するためのメソッド~チャンピオンデータを目指して~

 カリウムの ppt レベルの管理をしたい、ICP 発光ではどれくらいまで測定できるでしょうか?前回、イオン化抑制剤を利用して高濃度域のナトリウム (Na) とカリウム (K) を測定する方法を紹介したところ、微量域はどこまで測定できるのか?というご質問をいただきました。Na と K は他の元素と少し変わった挙動をしますが、マルチタイプICPが市場を席捲しているせいか、最近は元素毎にフォーカスした測定条件を組むことが少なくなってきています。
 デフォルト設定で普通に測定すると、せいぜいカリウムは 1 ppb 程度までしか定量できません。しかし、私も 1 人のパーキンエルマー ICP-OES ユーザーとして、カリウムのチャンピオンデータを目指してチャレンジしてみました。最新のICP-MS だとカリウムの検出下限は 0.02 ppt というレベルに到達しているようですが、ICP-OES の場合はどれくらいなのでしょうか。
 測定は、信頼性の高いカリウム標準液 1000 ppm(関東化学社製を使用)を使用し、超純水のみで多段階希釈し(オルガノ社製ピューリックオメガを使用)、検量線作成用の標準液を調製しました。

まずは結果(スペクトルと検量線)から示します。今回は Avio 220 での測定データです。プラズマ条件は 2 種類で比較してみました。


Fig.1 カリウム 1 ppb のスペクトルプロファイル
左:RF1000W,プラズマガス17 L/min, ネブライザーガス1.2 L/min
右:RF1500W,プラズマガス10 L/min,ネブライザーガス0.65 L/min

 


Fig.2 カリウム 0.05~1 ppb の検量線(コールド条件のプラズマ)

 

プラズマ条件によって大きく感度が異なることが分かりました。
RF1500W(Neb.0.65)では、ブランクと 1 ppb のピーク差が少ししか目視できず、実測による検出下限値は 0.22 ppb でした。
RF1000W(Neb.1.2)では、明確なカリウムのピークが出現し、検量線 0.05 ppb~1 ppb でも良好な直線性が得られ(Fig.2)、検出下限値は 0.028 ppb が得られました。さすがに ICP-MS には遠く及びませんが、サブ ppb レベルからの管理には使えるかもしれません。

 つまり、カリウム(ナトリウムも)はプラズマ条件によって感度が大きく異なる元素である、ということです。デフォルト設定よりも約 10 倍の感度改善が見られました。検量線を引くのもままならなかった濃度でも十分な感度を持って測定できるようになります。

プラズマ条件とは、アルゴンプラズマを生成しているときに使われているガス条件で、

  • プラズマガス流量
  • 補助ガス流量
  • ネブライザーガス流量
  • RF出力

などです。
 ここで、プラズマ温度に比較的影響が大きいのは、プラズマガス流量ネブライザーガス流量です。
プラズマをホットな状態にするには、
プラズマガス流量(最小流量 8 L/min)もネブライザーガス流量も低く設定します。
一方、プラズマをコールドな状態にするには、
プラズマガス流量もネブライザーガス流量も高く設定します。Avio の制御ソフトでは波長毎にプラズマ条件を変えながら測定するメソッドも組めますので、ホットとコールド条件を複合したメソッドで一度に多元素を高感度測定することも可能です。

 一方で、今回示したように、高感度化に伴い、微量域のカリウムを測定するときは、コンタミネーションの制御が大きな課題となってきます。装置導入部分、容器、ピペットチップ、酸、水、作業環境などからカリウムが汚染してきますので、十分クリーンな環境下での測定を試してみてください。私も汚染させない自信はありましたが、初回の検量線作成時(Fig.3)は、1 点+15% 外しました(0.6 ppb に+0.09 ppb の汚染)。


Fig.3 カリウム検量線作成時の0.6ppb測定時の汚染

 

今日はコールドプラズマ条件の有効性についてカリウムの測定例を紹介しました。分析目的によっては重要なテクニックだと言えます。

 

 

<< Prev
低分解能/高分解能モードをAvio500で使い分けるコツ

Next >>
検量線の直線性の指標である相関係数って大事ですか?