熱分析のはじめの一歩は5月なのかも | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

熱分析のはじめの一歩は5月なのかも

コロナウィルスが猛威をふるっています。
COVID-19 に罹患された皆様には一日も早い回復をパーキンエルマーアプリケーションチーム、パーキンエルマージャパン一同、お祈り申し上げます。また、緊急事態宣言を受け、パーキンエルマージャパンではテレワークなど実施し、COVID-19 感染拡大防止に努めています。この緊急事態宣言の期間、連絡の遅延等がございましたら、何卒ご容赦くださいます様、お願い申し上げます。

熱分析だとかなり難しい話になってしまう FTIR ブログに掲載の"消毒用アルコール濃度推定に FTIR を使う"事例、興味ある方はぜひ読んでみてください。ブログコーナーの問合せは画面の右の"ご質問はこちら"からどうぞ。

 

さて、緊急事態宣言を受け、筆者も熱分析をしている時間より自宅で仕事していることが多くなりました。熱分析って考える時間が本当に長いですよね、実際。考え続けるのに、「難しくてよくわからない」って言われることが多くて悲しくなっている筆者です。でも、熱分析って結果を使っていろいろな側面から材料特性を考えることができる数少ない分析じゃないかと思います。よく聞かれるのが、“結局,何が正しい?”です。たぶん、きっと、理論が正しいかどうか、仮定が正しいかどうか、を示す分析が熱分析は、“ある側面では正しく、ある側面では正しくない”を明示してしまうので、自分の理論展開に沿わないと熱分析の結果が何言っているかわからないのではないかと...正しい、と、正しくない、の両方の判断ができるので、考えることが増えてしまうような気がしてます。

ちょうど学校の新年度 9 月開始の議論も出始めています。毎年、この時期は熱分析を始める方も多いので、筆者のもとにはどうやって熱分析を覚えようか、とか、教えようかといった内容の相談も多く寄せられます。

で、考えた末、今回からしばらく熱分析で筆者が熱分析を始めたころに教えてほしかった内容を思い出してみようかと...

 

熱分析のピークと融点の関係のイメージができない、融点なのに温度が変わる意味がわからない、昇温速度が変わると温度が変わるとはいうけれど融点なのに何かしっくりこない、といった感じでした。インジウムの融解を測定してみると、

図1 昇温速度の異なるインジウム1mgの融解、横軸温度(図1左)、横軸時間(図1右)2℃/min(赤線)、5℃/min(黒線)、10℃/min(緑線)、50℃/min(黄土色線)、100℃/min(紫線)、300℃/min(青線)

 

横軸温度(図1左)だとピークが全く違うんですけど、横軸時間(図1右)にすると横軸温度のときほど、ピークの形が変わらないです。
熱分析の温度って試料温度を一定の昇温速度のもとでセンサーの外側で測った温度なので、昇温速度の条件を変えると測定で得られた融点が 156.6 ℃だったと,170 ℃だったりします。当時の筆者も、じゃあ何が正しいの、って悩みました。今なら一つ結果が意味するたくさんの内容を少し整理できる様になりましたが、当時は大ごと...

そんな経験をした筆者がお勧めする“熱分析のはじめの一歩の測定”を書いてみます。

TG(TG-DTA)
試料:シュウ酸カルシウム
試料量:5 mg, 20 mg,40 mgの 3 条件(少なめ、多め、かなり多め)
容器:白金
雰囲気ガス流量:窒素流量少なめ、空気多め、空気少なめ(3 条件)
温度範囲と昇温速度:室温から 800 ℃まで、10 ℃/min(1.5 Hくらい)と 40 ℃/min(0.4 Hくらい)

すべて実施すると 18 条件です。最後に 18 条件のうち一つと同じ条件で再現性確認すると、条件次第で同じ結果にもなるし,異なる結果にもなります。

試料量 20 mg、昇温速度 40 ℃/min、空気流量多め、を最初に測定すると、測定が早く終わりますし、筆者は未知試料の測定をこの手順で始めます。

DSC
試料:PET
試料量:2 mg, 6 mg,15 mgの 3 条件(少なめから多めまで)
容器:アルミニウムクリンプ
雰囲気:窒素
温度範囲:25 ℃から 300 ℃まで、25 ℃等温 3 分→ 昇温 → 300 ℃等温 3 分 → 冷却 → 25 ℃等温 3 分 → 昇温 → 300 ℃等温 3 分 → 終了(または冷却して昇温の繰り返し)
昇温速度:20 ℃/min(1 Hくらい)と 40 ℃/min(0.7 Hくらい)、冷却 20 ℃/min

すべて実施すると 6 条件です。

試料量 15 mg、昇温速度 40℃/minで最初の測定してみてください。容器に試料を入れるのが大変かも、です。


図2 10 mgの PET の DSC 測定結果、昇温速度 20 ℃/min ~ 300 ℃/min

 

図2の PET の融解は 250 ℃付近に観察されるピークです。昇温速度が速いほど、ピークトップ温度が下がっていますが、間違っていませんので。この結果から必要な物性と照らし合わせることができる、それが熱分析です。また、今回も答えのない回になってしまいました。
わかりにくくて、みなさんに嫌がられる熱分析に関わってしまった不幸。これから熱分析を始めようとする方には、いつもと違う条件でかわるところを探す、といろいろな条件の影響と物性の関係を考えることができて、少し面白く感じてもらえるかもです。

 

熱分析屋さんのつぶやき、次々回から講習会によくある熱分析の使い方で話を進めてみようかと...“つぶやき”なので急に変えるかもしれませんが。

次回までにCOVID-19が落ち着くことを願って。では次回10月号でお会いしましょう。

 

 

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