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分光干渉特集6 金(Au)由来の分光干渉事例から考える波長選択と対策

 ICP-OES は検量線を使ってサンプルの定量値を出すため、分光干渉は定量値の信頼性を損なう課題の 1 つです。前回までに鉄(Fe)銅(Cu)コバルト(Co)由来の分光干渉の例を紹介しました。今回は金(Au)由来の分光干渉について少し紹介しつつ、分光干渉が発生したときの注意点や、共存元素によって採用する波長は違う、という点について対策を考えます。

 

【金(Au)中のリン(P)】

 Au は微量分析に利用できる主要波長においても、それほど発光強度が高くないため、他の測定対象元素の波長に大きくピークが出てしまうことは少ないです。そのため、Au 中の元素分析の注意点は、主に金を溶かすために使っている王水濃度の影響(第46回 検量線法の危うさと、内標準補正法の使い方(物理干渉の補正)について~硝酸濃度の問題提議~)や、マトリックスが高い場合の全体的な減感、バックグランドの上昇によるバックグランド補正線の設定問題(Avio は自動補正可能)などです。さらに、長期安定性を悪くする原因として、高い酸濃度の影響によって送液に利用するペリスタルティックポンプチューブの劣化による流速変化、トーチや採光ノズル(Avio はシェアガスシステムがあるため採光ノズルはありません)が金でメッキされたように汚れていくために起こるデータへの影響です。

 

分光干渉としては、P 178.221 nm と P 177.434 nm を紹介します。

 ここで示したように、P 178.221 nm は Au による分光干渉が見られますので、P 177.434 nm を利用するという選択肢があります。しかしながら、P 177.434 nm には Cu 由来の分光干渉があります。前述の P213.617 nm と P 214.914 nm には Au の干渉はありませんが、Cu の干渉があります(第40回 分光干渉特集4 銅(Cu)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介)。Au サンプルで使える波長と、Cu サンプルで使える波長は異なる、ということです。いつも同じ波長を選択している、という場合もあると思いますが、サンプルが異なれば採用できる波長も異なる、という認識を持っておくことは重要です。

 では、どちらも含まれていて、どの波長も隣接に分光干渉ピークが発生してしまっている場合はどうするか?という問題があります。その場合は、いくつかの対策方法があります。

  • 前処理によって共存元素を取り除く
  • サンプルとマトリックス濃度(今回では Au 濃度)を一致させた Au 添加した検量線法
  • 干渉分離機能の利用(MSF 法)
  • ICP-MS など異なる装置を選択

などです。

 もっとも手軽にできるのは MSF 法だと思います。MSF 法は、分光干渉となる元素の標準液を実測して測定メソッドに記憶させておくだけで、サンプルに分光干渉が発生した場合にのみ形状で分離・除去してくれるという機能です。この MSF 法については、また別の機会に紹介予定です。

 

【金(Au)中のひ素(As)】

 バックグランド補正が定量値に影響を与える例として As を紹介します。As 188.979 nm は特に問題ありませんが、193.696 nm はバックグランドが上昇し、ベースライン上にやや分光干渉が乗ってきています。このため、バックグランド補正位置によっては、As が含まれている定量結果となる可能性が考えられます。検出された数値に希釈倍率などを乗ずると、異常に高い As 濃度、なんてこともあるかもしれません。希釈倍率を乗じた後の数値を見る前に、測定溶液濃度をいくつかの波長で差がないか確認すると気づきがあると思います。
 なお、Avioのソフトではデータビュワーという表スタイルの定量結果一覧表示機能があり、測定溶液濃度一覧と、サンプル換算濃度一覧をそれぞれ閲覧することができます。

 分光干渉特集も 6 回目になりました。実はあまり人気のない特集記事なのですが、基礎的な干渉を考える機会になっていれば良いなと思っています。

 

合わせて読みたい記事:

第41回:分光干渉特集5 コバルト(Co)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介
第40回:分光干渉特集4 銅(Cu)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介
第39回:分光干渉特集3 鉄(Fe)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介
第38回:ICP発光で硝酸由来のN2、NH2、NOの二原子分子による分子スペクトル線が集合した発光線(バンドスペクトル)の存在は、分光干渉となりえるのか?!の問題について
第36回:分光干渉特集2 具体的に分光干渉ってどんなものがあるの? WebExpo限定先行公開!
第35回:分光干渉特集1 リン(P)に対する銅(Cu)の分光干渉を例に
第25回:低分解能/高分解能モードをAvio500で使い分けるコツ

 

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