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分光干渉特集3 鉄(Fe)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介

ICP-OESでの測定において、分光干渉は定量値の信頼性を損なう大きな問題の 1 つです。前回までに分光干渉にはどのようなものがあるか包括的に紹介しました。今回からはより細かく多くの情報を提供したいと思います。今回は鉄(Fe)由来のスペクトルがどの元素・波長にピークとして現れるかを紹介します。JIS K0102 工場排水試験方法に例示されている波長が利用出来るところ出来ないところも示します。
もちろん、分光干渉は分光器の分解能によって影響の程度が異なりますので、どこにピークが出現するのか?という参考までに読んでいただければと思います。もし暗記できれば、ICP-OESにすごく詳しい雰囲気を出すことができます。

 

鉄(Fe)中のホウ素(B)】

まずは前回のおさらいとしてホウ素からです。

 JIS K0102 に例示されている 249.772 nm は、ホウ素の発光線の中でも感度が良く使いたい波長の 1 つです。ICP の検出下限値を出す場合などはこの波長を使うことも多いです。しかし、隣接した Fe の発光線があります。このため、環境サンプルであれば 249.677 nm を採用したいところです。しかし Fe 濃度が高い場合は、この波長でも分光干渉が見られてきますので、208.957 nm や 182.578 nm を採用すると良いでしょう。

 

鉄(Fe)中のアルミニウム(Al)】

短い波長域の波長は分光干渉が比較的少ないような印象がある人もいるかもしれません。Al には 167.022 nm があり、メーカーによってはこの波長が第一推奨としているかもしれません。しかし Fe が隣接し分離が難しい状況となります。一方、Al 396.153 nm は Fe の影響を比較的受けにくいということが分かります(パーキンエルマー第一推奨波長)。

 

鉄(Fe)中のヒ素(As)】

AsはFe濃度が高すぎなければ問題ありません。

 

鉄(Fe)中のカドミウム(Cd)】

Cd 214.440 nm はカドミウムの発光線の中でも感度が良く微量分析に利用したい波長の 1 つです。JIS K0102 にも例示されていますが Fe が隣接しています。Cd 228.802 nm といった Fe と分離できている波長を選択するようにしましょう。

 

鉄(Fe)中のクロム(Cr)】

Cr にも Fe の隣接ピークは見られ Cr 283.563 nm は使えませんが、Cr 206.158 nm(JIS 例示)など使える波長も多々あります。

 

鉄(Fe)中の銅(Cu)】

Fe 中の Cu 測定は難しいケースが多いです。Fe の濃度によっては使えるけれども、Fe 濃度が高くなってくるとわずかにベースに乗ってきたりしますので、Cu の微量分析が難しくなる可能性もあります。Cu の濃度が高ければ問題はありません。Fe 濃度と、測定したい Cu 濃度域によって選択できる波長を選んでいくことが重要です。Fe 濃度が分かっているなら、マトリックスマッチング検量線法が好まれるケースだと考えられます。

 

鉄(Fe)中のマンガン(Mn)】

分光干渉ってこういうの嫌だな、というのが Mn 294.920 nm と 259.372 nm です。測定対象である Mn に Fe がほぼ完全に重なっているパターンです。この波長しか測定していない場合、ピークが1つしか見られないため誤認しやすいです。Mn 自体は測定感度の良い波長が多く存在しますので、波長の選択には困りませんが、複数波長の測定・スペクトルの重ね書きによる判断をしていくと上手に回避できます。

 

鉄(Fe)中の亜鉛(Zn)】

Zn は JIS K0102 に例示されている 213.857 nm は Fe の濃度次第で完全に Fe が重なります。Zn 206.200 nm が好ましいと考えています。ただし、Fe が %オーダーになるようなサンプルであれば、ここもマトリックスマッチング検量線法が好ましいケースになると思います。

 

以上、今回は Fe マトリックス(~1000 ppm)における代表的な分光干渉事例を紹介しました。いろいろなところに Fe はピークが出現します。この他に、この元素はどう?みたいなご質問がありましたらデータを随時アップデートしていきたいと思いますので、Web お問い合わせフォームよりご連絡ください。

分解能によっては今回のようにスペクトルが 2 本に分かれて見えるケースもあれば、重なってしまって 2 本に見えない場合もありますので、この記事を参考にしていただき、ご自身の装置で確認することをおすすめします。

 

今回が2022年最後の記事更新となりました。
次回は銅(Cu)マトリックスにおける分光干渉事例を紹介する計画にしています。

 

 

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