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分光干渉特集2 具体的に分光干渉ってどんなものがあるの? WebExpo限定先行公開!

 ICP-OES での測定において、分光干渉は定量値の信頼性を損なう大きな問題の1つです。多くの波長において ICP-OES の優れた波長分解能によりほとんど分離が可能です(全てではないことが問題)。見るからに分光干渉だと分かるようなスペクトルであれば回避も容易ですが、完全に重なってしまうケースも稀にあります。複数波長を測定してみれば分かることですので、事前に知っておく必要もないわけですが、どの元素・波長に分光干渉が発生するか知っておきたいという心理もあります。ICP ソフトウエアでは、5 万以上の波長ライブラリが保存されており、スペクトル上にカーソルを合わせ波長表を参照すると、その周辺に観測される元素・波長を確認することができます。しかし、ライブラリでの判断は干渉源が Fe なのか?Ni なのか?どっちも同じ位置に出る可能性があり判別は曖昧になることも多いです。例えば、B 249.772 には Fe 249.782 と Ni 249.782 が同じ位置に検出されます。この判断には Fe 自体、Ni 自体を測定してみれば分かります(Avio 550 であれば全元素同時測定機能 UDA を利用すれば再計算するだけで判断できます)。とはいえ、分光干渉しているかどうかは、標準液の測定ピークプロファイルと、サンプルピークプロファイルを重ね、同じ位置・形状をしているかどうかで判断できますので、事前に知る必要もありませんが、今回は、どういう元素・波長が分光干渉するのかを知識の蓄えとして共有したいと思います。


図 ホウ素測定時の分光干渉をライブラリから検索した様子
ホウ素1 mg/L(緑ライン)、Fe100 mg/L、Ni1000 mg/Lの3ピークを重ねて表示

 

 前振りが長くなりましたが、ICP-OES の基本中の基本である分光干渉事例について、情報共有として紹介していきます。今回はダイジェストとして、様々なマトリックスで起こる代表的な発光線を紹介しながら、波長選択の考え方を基礎編として記載します。鉄 (Fe)、ニッケル (Ni)、銅 (Cu)、コバルト (Co)、白金 (Pt) マトリックスを事例について順次紹介していきます。また、無機分析をしていると、様々な場面で JIS K0102 の波長を使っている、というケースも多く聞きますが、実際のサンプルによっては例示されている波長が使えないことも多いですので、そのあたりも共通認識として持っていければと思います。

 

鉄 (Fe) 中のホウ素 (B) 】

まず最初に、多くのサンプルに含まれる鉄 (Fe) マトリックス由来の分光干渉事例を紹介します。Fe は材料サンプルだけではなく、環境サンプルにも含まれますので、Fe 濃度によっては使えない波長も多々あります。

 

 JIS K0102 に例示されている 249.772 nm は、ホウ素の発光線の中でも感度が良く使いたい波長の 1 つです。ICP の検出下限値を出す場合などはこの波長を使うことも多いです。しかし、隣接した Fe の発光線があります。このため、環境サンプルであれば 249.677 nm を採用したいところです。しかし Fe 濃度が高い場合は、この波長でも分光干渉が見られてきますので、208.957 nm や 182.578 nm を採用すると良いでしょう。

 

ニッケル (Ni) 中のコバルト (Co) 】

 

Co 230.786 nm には隣接して Ni の発光線が見られます。この差は 0.008 nm あるため、Ni 濃度が 100 mg/L 以下であれば問題なく利用できます。また Co 238.892 nm には Ni の発光線は見られません。しかし、Fe 238.863 nm の発光線が隣接しており、ここの強度は同濃度の Co に対して 1/3 程度の発光強度として観測されます。Fe 濃度が Co 同等であれば問題ありませんが、Fe 過剰の場合は、使えない場合も考えられますので注意が必要です。

 

銅 (Cu) 中の亜鉛 (Zn) 】

 

ここで気をつけたいのは Cu 202.548 と Zn 202.548 が完全に重なることです。この波長だけを測定している場合、完全に誤認することになります。Zn 206.200 は Cu の干渉を受けませんので、この波長を測定しておくようにしましょう。Zn 206.200 はニッケル (Ni)、アルミニウム (Al)、コバルト (Co) などからの干渉もありませんし、Fe も 1000 mg/L 程度までなら干渉の程度も小さし波長分離可能です。

 

コバルト (Co) 中のカドミウム (Cd) 】

 

 Cd 214.400 は感度も良く Co の干渉もなく採用できます。JIS K0102 でも例示された波長ですが、Fe の干渉があります。Cd 濃度が低いと Fe の影響を受けてしまう懸念があるため、個人的には Cd 228.802 も測定しておきたいと考えています。

 

 次回のブログでは Fe 由来の分光干渉事例について多く紹介していきたいと予定していますが、多くのサンプルに Fe が存在している可能性があるなかで微量の Cd 214.400 を採用するのは心配があります。このように、JIS 等で(あくまで)紹介されている波長が必ずしも利用できるわけではないですし、ライブラリでの確認だけではなく、一度は自分で波長を決定する、という作業をすることが大事だと考えています。

 

 今回紹介した分光干渉事例から分かるように、分光干渉は干渉源となる濃度次第で、目的波長が使えるかどうかが決まります。あるマトリックスでは使えた波長も、マトリックス成分が異なれば使えない場合もあります。もちろん、ICP-OES の優れた波長分解能によって、多くのサンプルに対し波長分離が行えていますので、万能に使える波長のほうが多いわけですが、稀に難しい場合もある、ということを認識しておくことと、本当に正しい結果なのか?という疑問を持つことは大事です。昨今のソフトではスペクトルのバックグランド補正設定も自動化され、多くの場面で人を介さずに正しい結果を得られるようになりました。しかし最終結果を出すときには、装置任せにせず、分析者自分自身で判断していくことが大事だと考えています。

 

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