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分光干渉特集4 銅(Cu)マトリックスによる分光干渉スペクトルを紹介

 ICP-OESでの測定において、分光干渉は定量値の信頼性を損なう大きな問題の1つです。前回までに鉄(Fe)由来の分光干渉にはどのようなものがあるか紹介しました。今回は銅(Cu)由来のスペクトルがどの元素・波長にピークとして現れるかを紹介します。前回同様にJIS K0102工場排水試験方法に例示されている波長も合わせて示していきます。

銅(Cu)中のりん(P)】

最も代表的な分光干渉事例として挙げられることが多い Cu-P の分光干渉を紹介します。

 P 213.597 nm や 214.914 nm は、波長分解能の高い分光器であればある程度の Cu 濃度まで分離することができます。もちろん、Cu 濃度が非常に高くなり、かつ P 濃度が低いような場合は定量が難しくなってきます。178.221 nm は分光干渉を受けませんので選択すると良いでしょう。しかし、この波長のように 190 nm を下回る波長域を測定するためには、分光器内の酸素を除く必要があります。窒素ガスパージやアルゴンガスパージ、もしくは真空ポンプによって脱気を行う分光器もあります。ガスパージ方式の場合は、装置や設置環境によってパージ完了に要する時間が異なりますので、注意が必要です。

 

銅(Cu)中の亜鉛(Zn)】

 Zn 202.548 nm は Cu と完全に重なる形で分光干渉が発生します。ピークの形状もほぼ似ており、一見 Zn が検出されていると誤認しやすい波長ですので注意しましょう。JIS に例示されている 213.857 nm は幅の広い Cu 由来のピークに隠れてしまいます。206.200 nm は近くに Cr もありますが十分に分離できる位置にあります。

 

銅(Cu)中のニッケル(Ni)】

 Ni 221.648 nm は Cu 濃度が高くなると、バックグランド位置が変化してくるため、検量線法での定量誤差が心配な場合もあります。231.604 nm を採用すると安心です。

 

銅(Cu)中の鉛(Pb)】

 Pb は ICP-OES において感度が悪い部類の元素です。微量分析を実施する際には必ずといっていいほど 220.353 nm を利用しています。しかし Cu 由来の分光干渉が見られるため他の波長を使わなければいけないケースがあります。

 

銅(Cu)中のモリブデン(Mo)】

 Mo には顕著な分光干渉が見られませんが、Cu 濃度が高くなってくると 203.845 nm にピークが見られてきます。Cu 中の微量分析を実施する場合、波長間で濃度が異なる可能性があります。

 

銅(Cu)中のニオブ(Nb)】

 Nb309.418 nm には Cu の分光干渉が見られますが、Cu 濃度が高くなければ問題ありません。

 

銅(Cu)中のチタン(Ti)】

 Ti は ICP-OES では感度が良く微量分析に利用できる波長も多いため、楽に測定することができます。334.940 nm には Cu 濃度が高くなると分光干渉が見られてきますが、その他の波長は問題なく測定に利用できます。
 なお、334.940 nm の短波長側(左側)にある 1/3 程度のピークも Ti のピークです。ここには Ti のピークが 2 つ隣接して現れます。波長分解能を装置間で比較したい、といったときに、この谷の落ち込み具合を見たりすることがあります。Avio 550 の高分解能モードであれば、十分な分離が行われていることが確認できます。他に単元素の溶液で分解能を比較するために利用されるのは Ce393.108 nm などもあります(別途紹介をしたいと思います)。

 

 以上、今回は Cu マトリックス(~1000ppm)における代表的な分光干渉事例を紹介しました。Fe ほどではありませんが、Cu もいろいろなところにはピークが出現します。事例を見ていただければ察していただけたかと思いますが、とりあえず標準液とサンプルを測定し、スペクトルを重ね書きしてみれば分光干渉の有無が確認できる、ということが分かると思います。Zn 202.548 nm は測定しても分からないパターンですが、他の波長も見ておけば回避できると思います。分光干渉がない波長を選択するのは、メソッドを作成する前よりも測定した後のほうが確実だと言えます。とはいえ、今回までのように濃度差がハッキリしていれば判別も楽なのですが、微妙な濃度の場合、判断が難しいときありますよね。

 

何か気になる点やリクエストなどがありましたら、Webお問い合わせフォームよりご連絡ください。次回はコバルト(Co) マトリックスにおける分光干渉事例を紹介する計画にしています。

 

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