ICP-OESでもネブライザーガス流量の調整は必要? | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

ICP-OESでもネブライザーガス流量の調整は必要?

内標準元素の選択などの重たい話が続きましたので、今回はすべての ICP-OES を使っている人にとって有用な情報を提供したいと思います。ネブライザーガス流量の調整についてです。

 

ネブライザーは溶液を霧化しプラズマへ導入するための重要パーツです。ネブライザーで霧化することと、プラズマに霧を運ぶためにアルゴンガスを導入します。そのためキャリヤーガスとも呼ばれます(今回は PerkinElmer 仕様でネブライザーガスと記載します)。このネブライザーガス流量を調整したことはあるでしょうか?ICP-MS の場合、装置調整の基本中の基本であり、必ず実施する行為であるにも関わらず、ICP-OES では日々の調整項目にさえ入っていません。もともとラジアル測光しかできなかった時代、ICP-OES でネブライザーガス流量を最適化しようとすると、それと連動して最適観測位置も動いてしまうため、かなり調整は手間がかかったものと思います(第10回 ラジアル観測高さの最適位置とは?~発光強度の違いから考察してみた~)。しかし、アキシャル測光が出来るようになると、ネブライザーガス流量変化による最適な観測位置の変化はほぼ連動しないと考えられます(プラズマの中心から動かない)ので、調整するのは容易です。基本的には、感度が最も高くなる条件を設定すれば良いです(第21回 ICP 発光の細かい使い方講座3 ~キャリヤーガス流量の選択~)。もちろん、感度が良ければいい、という使いかただけではなく、感度を落として高濃度を測る(第31回 ICP発光で1 %(10,000 ppm)まで検量線を書けるのか?)とか、コールドプラズマ条件のほうが感度が良い元素があったり(第26回 微量カリウムをICPで測定するためのメソッド~チャンピオンデータを目指して~)、分析にあった調整の目的は色々あるとは思います。
つまり ICP では、「感度の良い条件」は、元素や波長によって異なるため一定値ではありません。1 元素毎の測定であれば、その元素・波長の最適条件を出すと良いですが、今回は多元素同時測定を目的とした場合、全体的に妥協できるような設定をするための調整方法です。

 

今回はマンガン(Mn) 257.610 nm (イオン線)を使った調整方法について紹介します。簡単ですので、ぜひ実施してみてください。ネブライザーの種類によって(第13回 どんなネブライザーを使っていますか?)最適なガス流量が変わりますので、チェックしてみましょう。

 

【連続グラフィックスでの調整】

まずは連続グラフィックスを利用した調整方法を紹介します。
メソッドに Mn を入力し、連続グラフィックス画面を表示させると、横軸時間、縦軸発光強度の連続シグナルが表示されます。ここで、マニュアルでプラズマ制御内のネブライザーガス流量を変化させると、強度変化を見ることができます。ほとんどの同軸ネブライザーは、0.6 L/min 付近で適切に噴霧できるようになっていますので、0.4、0.5、0.6、0.7 というように 0.1 きざみで変化させてみると、強度変化を見ることができます。細かく見たい場合は、0.05 きざみで変化させます。基本的にはそれより変化量が少ないとあまり変わりません。
日常的にネブライザーガス流量の確認をするなら、この方法で最適化(確認)すると良いと思います。たとえばいくつもネブライザーを持っている方は、それぞれの最適値があるかもしれません。ネブライザーガス流量を多くすると、供給圧も上昇しますので、その圧も見ておくと良いです。供給圧が上がらない場合や、前回と異なる場合は、ネブライザーのコンディションが異なる(割れ、詰まりなど)場合が考えられます。

 

【測定メソッドでの最適値の確認】

測定メソッドに Mn の同じ波長をいくつも入力し、1 つずつネブライザーガス流量の設定値を変えて入力します。このメソッドだと、1 条件ごとに逐次測定をしてデータを保存することができます。多少時間はかかりますが、0.05 きざみで条件を設定しておいて、なぜそのネブライザーガス流量にしたのかの履歴を残す際には良いと思います。(同じように、ラジアル測光高さもいくつも入力しておけば、最適高さの検証データも残すことができます。)

このような作図も容易です。最適値が分かりやすいですね。

供給圧の変化の記録として残せます。図にもしてみました。

 

ネブライザーの種類によって変化は異なります。圧にも上限がありますので、ネブライザーの種類によってはガス流量を上げられない場合もあります。

是非お試しください。

 

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