検量線法が無理なら内標準補正をうまく使うしかない~内標準元素の選定、元素・波長毎のイオン化干渉挙動を把握すれば使えるはず~ | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer

検量線法が無理なら内標準補正をうまく使うしかない~内標準元素の選定、元素・波長毎のイオン化干渉挙動を把握すれば使えるはず~

今年も恒例の JASIS が 2023年9月6日(水)~8日(金)に開催されます。PerkinElmer Japan も出展します。私も含めブログ執筆者のラボチームもブースに立って説明員をさせていただきます。ぜひお気軽にお立ち寄りください。ブログの話題なども大歓迎です。新しいソフトウエア(定性ツールも)も実演して紹介できます。

 

今回は、内標準補正にどの元素を使うべきか、という話題の続編です。
イオン化干渉が発生してしまうサンプル(例えばナトリウムが多く含まれるサンプルなど)の測定においては、発光強度の増減が見られ、検量線法では正しい定量値を得ることができません。なぜイオン化干渉が発生するのかは今回触れませんが、この現象は、元素・波長によって発光強度の増減挙動が異なります。ICP 発光で使う発光線にはイオン線(波長の後ろにIIと表記)と中性原子線(Iと表記)があります。この2パターンに挙動を分類できれば簡単なのですが、実際は元素・波長毎に異なります。

まずは実験データを紹介します。多元素混合標準液 1 mg/L に Ca を加えた/加えないものを準備し測定を行いました。Ca 濃度は 0~10,000 mg/L の範囲で複数の濃度で準備しました。
プラズマ条件は、プラズマガス 10 L/min、補助ガス 0.2 L/min、ネブライザーガス 0.60 L/min、RF出力 1500 W、サンプル流速 1.0 mL/min としました。

 

この図に示すように、Ca 濃度が高い溶液ほど各元素の発光強度が減少していることが分かります。減少の幅は広がりがありますので、それぞれの元素・波長に対し挙動が似ている元素で内標準補正すれば、おおよそ適切に定量値を得ることができると考えられます。この図で示した元素・波長であれば、中間の挙動を示す元素1つで全体を補正すれば、Ca 10,000 mg/L マトリックスの時で定量値 ±30% くらいの誤差で補正ができる、ということになります。Ca マトリックスが薄ければ薄いほど、補正誤差は小さくなりますので、可能な限り(測定できる濃度範囲で)希釈してサンプルを測定すると良いと考えられます。

しかしながら、せめて真値 ±10% 誤差くらいで定量値を出したいと思うと、内標準元素としては複数個使う必要があると言えます。内標準元素を選ぶ基準は次の通りです。

  • サンプルに含有していない元素
  • 発光線の種類を合わせる(イオン線、中性原子線)
  • 波長が近いものは挙動が近い可能性がある
  • 周期表の位置が近いものは挙動が似ている可能性がある

といったところがよく言われています。実際に測ってみたデータから、4~5 元素ほど内標準元素の候補があれば、補正誤差も小さくなると予想されます。
まずはイットリウム 371.029 nm (II) で補正できる範囲にある元素をピックアップしてみました。Ca 10,000 mg/L 時点で ±5~6% の範囲で補正できる元素を示しています。もちろんこの他にもありますが、代表的なものを載せています。

これらの元素は周期表ではどの位置にあるかというと、次に示す青色で塗りました元素です。

 

だいぶ近いあたりにあることが分かります。このように、内標準元素の選定は、実際にマトリックス濃度を増やしていったときに挙動が似ている元素同士で補正できるかを確認できれば一番良いです。こういった試験ができない場合は、添加回収率を求めて、うまく回収率が出る元素を選択する方法もあります。

今回紹介したのはイットリウム 371.029 nm (II) で補正できる一部の元素を例として紹介しました。次回は他の元素と内標準元素の組み合わせを紹介します。

最終的には、全元素をうまく補正できる内標準元素の候補をいくつか示しつつ、減感が少ないときの方が補正誤差は小さくて済む、ということで、減感をしないように条件設定していく方法なども解説していく予定です。

 

参考記事はこちら:

 

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